肥後医育塾公開セミナー

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平成26年度 第1回公開セミナー「生活習慣から消化器の病気を考えてみよう」

【講師】
熊本大学大学院生命科学研究部消化器内科学分野 助教
直江 秀昭

『講演(4) 健康にとって大事な腸内細菌』
細菌叢(そう)の乱れに注意を


  人間の腸の中には1000種類以上、およそ100兆個もの細菌がいるといわれています。それらは縄張りを持ち集団で存在しているため、腸内細菌叢(腸内フローラ)と呼ばれています。「叢」とは草むらのことで、びっしりはびこった状態を表しています。
 腸内には、ビフィズス菌(細菌叢を安定させる働き)を代表とする乳酸菌などの善玉菌が約20%、一定数以上になるとアンモニアや硫化水素などの有害物質を作る悪玉菌が約10%、普段は無害で細菌叢が乱れると悪玉的な働きをするとされる日和見菌が約70%を占めています。腸内細菌叢は人それぞれに異なり、遺伝、生活習慣、免疫状態、加齢など、いろいろな要素で変化します。
 腸内細菌叢と年齢の関係では、一般に老年期になると、善玉菌が減って悪玉菌が増え、腸内細菌叢が変化する傾向にあります。ただ、原因は加齢だけでなく、ストレスや睡眠不足、運動不足などもあります。腸内細菌叢の乱れは、便秘や肌荒れの原因となり、老化や免疫力の低下、発がんリスクの上昇、肥満や糖尿病にもつながる可能性があります。
 腸内細菌叢は食事の影響を大きく受けることが分かっています。細菌叢を安定させるためには、プロバイオティクス(保健効果を示す微生物、またはそれを含む食品)を取ることが大事です。ヨーグルト、みそ、納豆、ぬか漬け、キムチなどの発酵食品がそれに当たります。
 プロバイオティクスの効果としてはほかにも、乳がん、膵がん、大腸がんなどの発がんリスクを減らすといった作用があることが報告されています。
 プロバイオティクスとともに、食事として野菜や果物、海藻類に多く含まれる食物繊維を取ることも大変重要です。ある種の食物繊維が腸内細菌の働きで分解されると、短鎖脂肪酸が作られます。これが悪玉菌の増加を抑えることが分かっています。
 食物繊維は便の量を増やし、大腸の粘膜を刺激し、便秘の解消にもつながります。一方で、食物繊維が少なく、脂肪の多い肉をたくさん食べる人は、がんのリスクが高まるという報告があります。
 腸内細菌はさまざまな病気と関わっていますが、食事、睡眠、運動などに気を付け、生活習慣を改善することで腸内細菌叢を整えられます。ぜひ皆さんにはまず腸の中から健やかになっていただきたいと思います。