肥後医育塾公開セミナー

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平成26年度 第1回公開セミナー「生活習慣から消化器の病気を考えてみよう」

【講師】
熊本大学医学部附属病院消化器内科 特任助教
階子(はしご) 俊平氏

『講演(2) 飲酒からの膵(すい)炎、そして膵がん』
区別難しい炎症とがん


  膵臓は胃の裏側にあり、消化酵素が含まれた膵液や、血糖を調節するインスリンなどを分泌しています。飲酒などで消化のバランスが崩れると膵炎が起き、血糖の調節機能がおかしくなれば糖尿病になります。
 急性膵炎は大量の飲酒後、上腹部の強い痛みで発症します。全国の急性膵炎患者は年間約6万人で、原因の1位は飲酒、2位は胆石です。治療の基本は絶食で膵臓の安静を保ち、十分な点滴をすることです。症例によっては内視鏡治療や血液透析、外科的手術が必要になることもあります。
 がんと違い良性の病気ですが、急性膵炎の死亡例は全体の3%程度あり、最重症例では死亡率が30%以上になる怖い病気です。断酒が最も重要ですが、約30%の人が飲酒を継続しているため、膵炎の再発率は58%に上り、41%の人が慢性膵炎に移行しています。これが非常に問題です。
 慢性膵炎は、ゆっくりとした経過で発症し、典型的には上腹部痛や腰背部痛がありますが、自覚症状を認めないこともあります。多くは過度の飲酒習慣が原因であり、治療の基本は禁酒・禁煙です。加えて脂肪の摂取を制限することも重要です。症例によっては、内視鏡治療や手術を行うこともあります。
 慢性膵炎は、進行すると膵臓の中に石ができ、膵臓が萎縮して糖尿病を起こしやすくなります。また、慢性膵炎の4%に膵がんが発生し、健常者と比べ約13倍、膵がんを発症しやすくなります。しかし、がんと炎症の区別は非常に難しく、進行した状態で発見されることもしばしばあり、慢性膵炎にならないように断酒することが重要です。
 膵がんは、発症すると命を落とす可能性が非常に高い、最も難治であるがんの一つです。典型的な症状は腹痛、腰背部痛、黄疸(おうだん)、体重減少などです。しかし、初期の場合には無症状のケースが多いので、症状が出る前に発見することが重要です。糖尿病を急に発症したり、糖尿病のコントロールが急に悪くなったりすることを契機に膵がんが見つかることがあり、そのような場合には膵臓の検査を受けられることをお勧めします。
 飲酒と膵臓の病気は密接に関係しています。ご自身の飲酒習慣を見直してみましょう。