肥後医育塾公開セミナー

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平成25年度 第3回公開セミナー『元気に長生き! 「ロコモ対策」』

【座長・講師】
熊本大学大学院生命科学研究部 整形外科学分野 教授
水田 博志

『《講演@》「ロコモ」って何?』
メタボや認知症と関係大


   「ロコモ」「ロコモティブシンドローム」という言葉をご存じでしょうか。運動器の障害のために歩くのが不自由になった状態をそう呼んでいます。運動器(ロコモティブオルガン)とは脊髄、末梢神経、筋肉、骨、関節など、体を支えて動かす仕組みのことです。
 元気に長生きするためには、歩けることが重要です。国も最近では心身共に自立した状態での生存期間を意味する「健康寿命」を延ばすことを目標にしています。2010年の厚生労働省調査では、日本人の平均寿命は男性79.6歳、女性86.3歳ですが、健康寿命は男性70.4歳、女性73.6歳です。平均寿命から健康寿命を引いた期間が要支援・要介護が必要な期間になります。
 介護が必要になる原因を10年の国民生活基礎調査で見ると、運動器の障害が23%、脳血管障害が21%、認知症が15%、高齢による衰弱が14%、その他が27%となっています。つまり健康寿命を短くする3大原因は「ロコモ」「メタボ」「認知症」なのです。50歳を過ぎると膝・背骨の痛みや骨折などで整形外科で手術を受ける人が急増します。これは寿命が人の運動器の耐用年数を上回るようになってきたためと見ることができます。
 年齢とともに運動器にはどんな変化が起こるのでしょうか。まず筋力や神経機能が低下し、病気でなくても反応が鈍くなり、バランス能力が低下します。運動器で一番変化が起こりやすいのは軟骨です。軟骨に変化が起こると腰や膝などが痛みます。また骨が弱くなり、転倒すると骨折をしやすくなります。バランス能力や筋力の低下、変形性膝関節症、変形性脊椎症や脊柱管狭窄(きょうさ)症、骨粗しょう症、これらは全て歩くのが不自由となる原因になります。
 ロコモの原因となる骨や関節の病気を持つ人は非常に多いのが特徴です。日本では変形性膝関節症の有病者が約2530万人、うち症状がある人が800万人、変形性脊椎症(腰痛)の有病者は約3800万人で症状がある人が1100万人、骨粗しょう症の患者数は約1000万人と推定され、この中のどれか1つの病気を持つ人は約4700万人に上るといわれています。
 またロコモはメタボや認知症とも非常に関係しています。メタボの要素である肥満、血糖の異常、コレステロールの異常、高血圧のうち1つを持つ人は2.3倍、2つを持つ人は2.8倍、3つ以上持つ人は9.8倍、4つとも持たない人に比べて変形性膝関節症を発症しやすくなります。また認知障害がある人では、ない人に比べて4.9倍、変形性膝関節症を発症しやすくなります。つまりロコモ、メタボ、認知症は、それぞれが相互に関係して、より介護が必要な状態につながっていくのです。
 それでは年を取ると誰しも運動器の障害が起こるので、要介護状態になるのは仕方がないかというと、それは間違いです。運動機能の低下を早期に発見し、改善に努めることで健康長寿を実現することができます。運動機能の低下を発見する方法が「ロコチェック」、改善に努める方法が「ロコトレ」です。また食生活もロコモの予防や治療に大きく影響します。