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肥後医育塾公開セミナー

平成25年度 第2回公開セミナー「心臓病にならないために」

【講師】
順天堂大学医学部大学院医学研究科心臓血管外科講座
天野 篤

『《第2部 より良い治療結果を目指して》 講演3 より良い治療結果を目指して―心臓手術のタイミングと標準術式―』
心拍動下手術が主流に


   昨年2月、私は天皇陛下の心臓のバイパス手術を執刀しましたが、術後の会見で「手術は成功したのか?」と質問され、「手術の成功は手術直後に話せるものではない」と答えました。外科手術の成功とは、手術前に患者さんが望んだ生活を取り戻したときだと思っているからです。
 さて、代表的な虚血性心臓病に狭心症と心筋梗塞があります。主な症状には、@運動後に胸が圧迫される感じがするA食後に胃の辺りが重くなるB動くと左肩やあごに違和感が出る─などがあり、診断が確定すると、薬剤による内服治療か、内服治療による効果が思わしくない場合、バイパス手術、またはステント(カテーテル)治療を選択します。
 バイパス手術には、心臓を止めて人工心肺を使う方法と、心臓を動かしたまま、心臓の冠動脈を固定して行う心拍動下手術があります。現在は、全国で行われるバイパス手術の約3分の2が心拍動下手術です。これまでのデータから、冠動脈障害が複数あり、狭窄の病変が複雑になるほど、心拍動下手術の方が治療後に質の高い生活を提供できることが分かってきました。冠動脈バイパス手術は、ステント治療が困難な患者さんにも心拍動下で安全に行うことができます。バイパスがうまく機能し始めると、再治療のリスクが低下し安定した日常を送れます。
 バイパス手術とステント治療の選択基準として、危険因子の少ない患者さんにはステント治療が向き、多い患者さんにはバイパス手術がお薦めです。医療機関は、治療経験が豊富な病院を選ぶに越したことはありませんが、経験のある専門医が後方支援する施設や、特徴ある患者支援を行っている医療機関にも目を向けてください。
 近年は「大動脈弁狭窄症」という心臓病が増加しています。この病気は無症状の期間が長く、一度症状が出ると約3年で命を落とすという、大変怖い病気です。心臓の弁の周囲が石灰化して硬くなり、弁が完全に開閉しないため、人工弁に置き換える大動脈弁置換手術を行います。今後はカテーテルでの治療も応用されますが、可能な施設は各県に1、2カ所程度ではないでしょうか。
 心臓弁の一つが正常に閉じなくなり、血液が逆流する「僧帽弁閉鎖不全症」も厄介な病気です。この診断を受けると、10年の間に3分の2の人が心不全を起こし、3分の1が脳梗塞の原因になる心房細動という非常に悪質な不整脈を起こします。僧帽弁を修復する手術を行えば、弁の閉鎖不全のない状態に戻せます。
 正常な大動脈が拡張する「大動脈瘤(りゅう)」を持つ患者さんも、食生活の変化などに伴い増えています。この疾患は心臓が動いたまま大動脈を切開し、バネ式のステントグラフトを広げて動脈瘤をカバーする手術を行います。以前は、術後1週間は寝たきりでしたが、今は術後4日ほどでリハビリができるようになりました。
 医療技術は日々進歩を続けています。人工心臓は手のひらに載るほど小型になり、機械トラブルに備えた交換も容易になってきました。臓器や組織を再建する再生医療も実用化までもう少しといったところです。