【講師】 |
『講演@ たばこ』
妊婦や胎児にも悪影響 家族も禁煙への協力を
WHO(世界保健機関)によると、世界では毎年540万人、日本では20万人がたばこの害で亡くなっているといわれています。
たばこの害について、一つ例を挙げましょう。原発事故以来、プルトニウムに強い発がん性があることが知られるようになりました。ところが旧ソ連で放射能漏れを起こした核処理施設の労働者を調べた報告によると、プルトニウムよりも喫煙の方が肺がんの危険を増やしていたのです。
たばこはダイエットに良いという人がいます。それは胃の働きが悪くなることと、味覚がおかしくなることが理由で、健康的な痩せ方ではありません。たばこは痩せるのではなく、やつれるのです。たばこを吸っている人はしわが増え、肌が浅黒くなります。たばこ代を払って、わざわざ高い化粧品が必要な肌を買っているわけです。
たばこには多種の香料を含む添加物が使われており、それぞれ安全性が確認されているといいます。しかし、たばこは燃える際に新たな化学物質を発生させます。不完全燃焼している受動喫煙の煙には、特に化学物質が多く含まれます。
中国から飛んでくる有害な環境物質として最近、「PM2.5」が話題になっています。とても微細な粒子で、吸い込むと肺の奥の血管に入り、肺や心臓病の原因になります。大気中の濃度が1立方メートル当たり15〜30マイクログラム程度なら問題ありませんが、中国の都市部では80〜1000マイクログラムになることもあるといいます。
実はPM2.5はたばこの煙にも含まれます。窓を閉め切った自動車の中でたばこを1本吸うと、濃度は1000マイクログラムのレベルに達します。
大気汚染を恐れて家や車の中に逃げ込んでも、そこで誰かがたばこを吸ったら、もう台無しです。
喫煙は妊娠にも影響します。たばこを吸う妊婦さんが産む赤ちゃんは出生体重が軽くなり、早産も増えます。
妊婦さんの半数は妊娠をきっかけにたばこをやめますが、出産後3カ月には8割の人が喫煙を再開します。理由は育児ストレスといわれていますが、それ以上に喫煙の再開を助長しているのは、夫がたばこを吸い続けていることです。
いったん習慣になった喫煙をやめるのは難しいことです。しかし妊婦さんがたばこを吸うと、母子共に健康を損ねてしまいます。
妊娠は女性がたばこをやめる大きな機会ですので、その機会を無駄にしないことが大切です。夫を含めた家族も禁煙に協力し、私たち医師も強く禁煙を勧める必要があります。