【講師】 |
『講演B「女性の膠原病〜全身性エリテマトーデス〜」』
初期には長い発熱続く 脱毛と蝶型紅斑も特徴
膠原病の膠原とは細胞と細胞をつな膠(にかわ)状の膠原繊維のことです。膠原病は、その繊維を中心とする結合組織が免疫異常により炎症を起こす全身性疾患で、全身性エリテマトーデス、強皮症、関節リウマチ、シェーグレン症候群、多発性筋炎などが含まれます。
全身性エリテマトーデスの患者は全国に6万〜7万人、男女比は1対10で圧倒的に女性に多く、20〜40代の人に多く発症。この年齢は女性の妊娠と出産に関連しています。
女性は女性ホルモンのエストロジェンの働きにより、感染に対する防御能力が男性に比べて高いのですが、妊娠するとエストロジェンの量が急に減り、免疫力が低下します。このことは母体にとって半分、夫の遺伝子を持った異物である胎児を保護するのに役立ちます。しかし出産後にはエストロジェンが再び増加、自分を守るために免疫力が増強します。そして出産に伴うストレスや、産道の損傷などの複合的な要因がそれに加わることで、全身性エリテマトーデスが発症する可能性があるとされています。
一方で、染色体の構造を発症原因とする見方もあります。男性は「XY」、女性は「XX」の性染色体を持っていますが、女性の「XX」のうち、一方のX染色体は通常、働かないようになっています。ところがネズミを使った実験で両方のX染色体を生かすと免疫反応に異変が起き、全身性エリテマトーデスになることが分かっています。このようなことがヒトでも起こっている可能性があるのです。
初期には発熱が長く続き、関節痛、皮膚発疹、顔や手足のむくみ、レイノー症状、息切れ、胸痛、腹痛、全身の倦怠(けんたい)感などを伴います。最も特徴的なのは、脱毛と、顔面にチョウが羽を広げたような形で赤く盛り上がる蝶(ちょう)型紅斑です。実はエリテマトーデスとは、ラテン語の「赤い斑点」に由来しています。治療は軽症の場合、非ステロイド系消炎剤などで治療します。重症になると、中等量以上のステロイド、免疫抑制薬、免疫グロブリン(抗体)大量療法、生物学的製剤などで治療を進めます。
全身性エリテマトーデスは、かつては死に至る確率が高い病気でした。早期発見、早期治療により、20年ほど前から死亡率は5%程度に低下しています。現在は各種の抗体を使って容易に診断でき、健康診断の尿・血液検査で見つかることもあります。ただ、中には中枢神経や末梢神経の障害、人工透析に至るループス腎炎を発症したり、治療の過程で卵巣機能不全に陥り、妊娠できなくなったり、非常に難しい病態も見られるため、注意が必要です。