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『療養環境の向上が急務』
高齢者ケアが行われる物的環境としての施設については、まだまだ関心が薄い。しかし最近では療養環境に対し、医療法や診療報酬の面などさまざまな基準が出ている。その基準を満たそうと努力をしている医療機関は多いが、残念ながらその基準は最低基準であり、その基準を満たせば十分だというものではない。今後は従来の概念だけにこだわるのではなく、求められる施設機能を十分に発揮できるよう再検討する必要がある。
まずは施設の安全性について述べたい。厚生省が出している平成六年度の「人口動態調査」を見ると、自宅で亡くなった人のうち、転んだり、やけどしたりなど不慮の事故で亡くなった人は約七千三百人。これは交通事故で亡くなった人のおよそ半分程度で、そのうち高齢者が五千人を占めていた。
高齢者が交通事故で亡くなった数は約四千百人。つまり町で交通事故にあうより、家で不慮の事故で亡くなるのが高いということが分かった。さらに不慮の事故の中でも転んだりなど不慮の墜落で亡くなった人を見ると、自宅より施設で亡くなるケースが多いというデータもあった。
ほかにも施設についてはいろいろなことを考えなくてはいけない。例えばベッド周り。いろんな家具が置かれているが、はたして本当にそれらの家具が安全なのか、高齢者にとって快適なのか、を考えなくてはいけない。ベッドから起き上がった時に立ちくらみがした場合、ベッド周りにきちんとつかまえることができるものがなくてはいけない。いまの施設は自分の空間が認識できなくしているのも問題だ。
このように療養環境の向上は急務だが、そのための条件には(1)患者サービスの一環として質の高い生活環境を提供する(2)入院治療・リハビリテーション施設の治療装置として設置する(3)病院スタッフによる看護・介護などの医療行為を介助する装置として設置する―の三点が考えられる。これらの検討のためにも、療養環境の位置づけを再確認する必要がある。