肥後医育塾公開セミナー

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平成9年度 第2回公開セミナー「痴ほう症患者ケアの実際とリハビリテーション」

【講師】
(国立健康・栄養研究所 成人・健康栄養部成人病予防研究室長)
杉山みち子

『栄養補給リハビリに効果』


   アメリカでは昨年から、栄養ケアが病院の評価委員会の基準の一つに加わった。評価基準にはスクリーニングやモニタリングなどが含まれている。
 また一九八〇年代から、タンパク質とエネルギーが欠乏することによって生じる低栄養状態(PEM)が高齢者の最大の問題であることが報告されてきた。
 アルブミン値が三・五グラム/dl以下で、日常生活活動度(ADL)が低い高齢者の余命が短いというデータもある。低栄養状態になると、エネルギー量は半分くらいしか摂取できず、うつ状態になったり、握力などの体力が低下したりする。
 平成八年度に、全国の高齢者施設で臨床検査や食事調査など四つの項目で栄養アセスメントを実施した。
 タンパク質の栄養状態の指標はアルブミン値で見たが、アメリカで積極的に栄養的介入をしようとしている三・五グラム/dl以下の人は、男女ともに約四割に上った。特に男性は、八十五歳を過ぎると六割以上になった。慢性腎(じん)不全などの疾患も関連していることが分かった。
 栄養補給による効果を紹介したい。アメリカで大腿(たい)骨骨折で入院した平均七十代の女性七百四十四人を対象にしたデータでは、体がごくやせている人は回復が悪く、死亡率も高かった。
 そこで、リハビリテーションのゴールを(1)介助つきで体が支えられる(2)自力で歩くことができる―として日数を見た。
 (1)まで何もしないと一週間かかるが、栄養補給すれば二日ほど短くなった。ごくやせている人も(1)まで十一日間だったのを三日間短縮できた。(2)までは通常の人で一週間、ごくやせた人は二十三日間も違った。
 アメリカでは九五年に栄養スクリーニング推進財団ができ、高齢者に対し栄養スクリーニングを実施し、問題ある場合は専門家が詳細なアセスメントをしている。栄養関係者だけではなく、すべての高齢者ケアにかかわるスタッフが、問題にかかわっている。
 日本でも栄養の問題が共通の評価指標になり、いろいろな支援の一環になっていくことを期待している。