肥後医育塾公開セミナー

肥後医育塾公開セミナー
肥後医育塾公開セミナー

平成9年度 第2回公開セミナー「痴ほう症患者ケアの実際とリハビリテーション」

【講師】
(川崎幸病院副院長)
杉山孝博

『24時間サービスの整備が大切』


   在宅ケアが増えているが、痴呆(ほう)症の場合は大変だ。やさしく言葉をかけても、急に怒りだしてしまうこともある。
 こうした反応も特徴を理解すれば、異常ではないことが分かる。正しく理解のための法則を作ってみた。
 まず感情残像の法則。「ふろに入らないと不潔」と言えば、言葉は忘れても「不潔」に対する感情だけ残り、「嫌な人だ」と思ってしまう。「脅し」は逆に感情を悪くしてしまう。
 記憶障害にもなる。同じことを繰り返すが、本人は忘れている。「やったでしょう」と言うと、「思い込ませようとしている」と、また混乱してしまう。
 逆行するという特徴もある。数十年分を忘れ、残った記憶が現在だと思い込む。子どもは小学生で、妻は三十代と思っているので、家族の顔が分からなくなるのは自然なことだ。また、症状は身近な人に対して出る。外ではしっかりしているのに、「物がなくなった」などと家族を疑うこともある。家族を信頼していることの裏返しだ。
 自己保身の法則もある。失敗を認めたがらないが、ウソをつこうとしているのではなく、判断力が落ちているためだ。どの症状もほぼ半年で別の症状にかわる。せいぜい半年だと思えばつらさも薄れるだろう。
 痴呆症のお年寄りを抱えたどの家族もたどる四つのステップがある。(1)戸惑いと否定。「虫の居所が悪い」程度だと思いたがる(2)混乱、怒り、拒絶。どうしていいか分からなくなる(3)あきらめと割り切り。混乱は少しは軽くなる(4)受容。そのままの状態を認め、家族として受け入れようと思う。
 前の段階を飛び越えて、いきなり「受容」には移れない。なるべく軽い混乱で乗り越えてもらうためには、早い段階で医療スタッフのケアが必要だ。家族の会などに参加することも大きな力になる。
 医療福祉はサービス業であり、相手のニーズに合わせ、二十四時間いつでも駆け付け、必要な医療が受けられる態勢を整えることが大切。医療だけでなく、福祉や地域の人との連携も考えていく必要がある。