肥後医育塾公開セミナー

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平成21年度 第3回公開セミナー「あなたの身近にある肝臓の病気」

【講師】
熊本大学大学院生命科学研究部消化器内科学講師
田中 基彦

『〈講演1〉知らないうちにかかっているかもしれない肝臓病』
多少傷んでも機能を発揮 症状なくても検診受けて


   肝臓は腹部の右上に位置し、重さ約1.5キログラムの人体最大の臓器です。肝臓に流れ込む血管には、心臓からの血液を送り込む「肝動脈」と、消化管で吸収された栄養分を含んだ血液を運び込む「門(もん)脈」があります。
 肝臓が果たす役割を一手に引き受けているのが肝細胞です。主な働きには、食物から吸収した栄養素を体が必要とする形に変化させる「代謝」や「合成」、人体に不要なものや有害なものを分解して排出する「解毒」、ブドウ糖をグリコーゲンに合成して、エネルギーとして蓄える「貯蔵」などがあります。
 肝臓は、生命維持に欠かせない多様な化学反応を行っているため、“化学工場"とも称されます。また肝臓は、多少の傷みでは機能が破たんすることはなく、優れた予備能力と再生能力を持っています。しかし、働きが限度を超えて低下すると、アンモニアのような有害物質が解毒されないまま脳に回るなど異常事態が起こり、生命の危険にさらされることもあります。肝臓が大きいのは、そういう事態を防ぐための予備の肝細胞をたくさん持っているためとも考えられます。
 “沈黙の臓器"といわれる肝臓はとても我慢強く、障害が起きても症状として現れにくい臓器です。だからこそ、症状がなくても検診を受けることが重要です。
 ところで、わが国における進行する肝臓病の多くは、B型とC型の肝炎ウイルスが原因です。これまで、肝がんによる死者が増加してきましたが、その主な原因となっている基礎疾患がB型とC型の慢性肝炎なのです。共に適切な治療を怠れば慢性肝炎から肝硬変、そして肝がんへと一定の経過をたどる、大変恐ろしい病気です。
 しかし近年、治療法が目覚ましい進歩を遂げたことにより、治りにくいとされたケースでも完治が期待できるようになりました。
 一方で、30%以上の肝細胞に脂肪が蓄積した状態を「脂肪肝」といいます。知らず知らずのうちに肝硬変や肝がんに進行する場合もあり、決して軽視できません。脂肪肝は、食べすぎや、お酒の飲みすぎが主な原因で、生活習慣病の一つといえます。
 最近問題になっているのは、お酒をあまり飲まないのにアルコール性脂肪性肝炎とよく似た病態の病気があることです。これを「NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)」といい、肝硬変や肝がんのリスクを伴います。早期発見、早期治療が何より大切です。