【講師】 |
『在宅緩和ケアって何だろう?』
充実した時送る手助け 在宅で苦痛ない療養を
自分の人生の最期は、わが家で迎えたい―。そう思われる方も多いのではないでしょうか。その願いに応えるのが在宅緩和ケアです。在宅緩和ケアは、がん患者のみに行われるものではありませんが、がん患者の在宅緩和ケアについて説明します。
がんと診断されると手術、放射線、抗がん剤などの治療を受けます。進行がんや再発がんになると治療目的は延命になります。寿命を可能な限り延ばし、延びた寿命を充実した時間として過ごすためです。抗がん剤治療で体が弱っていたり、病気が進行したりすると外来通院が大変になります。まだ通えるけどつらいな、というころが在宅緩和ケアを始める時期です。
かかりつけ医が診てくれると良いのですが、難しい場合は、がん診療連携拠点病院の連携室や在宅専門のクリニック、在住の開業医らでつくるネットワークなどにご相談ください。在宅緩和ケアの受け皿となっています。
ケアが決まると、病院の主治医らスタッフに、自宅を訪問する医師、看護師、介護保険の手配などをしてくれるケアマネジャーを交えてミーティングを開き、今後の方針を検討します。ミーティングは必ずしも決まり事ではありませんが、自宅に帰る前に医療関係者と顔合わせしておくのは心強いことで、厚労省も薦めています。
訪問する曜日や時間、緊急時の連絡先などをきちんと打ち合わせておくことで、24時間体制が保証されます。
入院しないと苦痛を緩和することができないと考えられる方が多いかもしれませんが、自宅でも入院と同様に苦痛を緩和することが可能です。何より自宅で過ごすことが苦痛の緩和につながることもよくあります。
私が担当したある患者さんについて、少しお話しします。その方は60歳代の女性で、末期の大腸がんでした。食事が入らず、胸と腹に水がたまっていて苦しそうで、余命は2、3日では、と思うほどでした。それでも家に帰りたいと希望され、退院しました。点滴、酸素吸入の状態で約3週間過ごすことができたばかりか、最期は自らの希望で点滴や酸素吸入、痛み止めを中止されました。不思議なことに、その後も苦しみはありませんでした。
亡くなられる2日前の早朝。電話があり、患者さんが「お世話になった人にあいさつをしたい」と言われました。駆け付けた私にその方は感謝の意を述べ、死後の後始末についても、きちんと話されました。それからの時間は会うべき人に会い、ご家族と歓談を楽しみ、生を十分にまっとうして旅立たれました。
自ら希望し、自らの意志を貫くとき、人は予測できない力を発揮するものだとつくづく感じ入りました。私たちの仕事はその手助けをし、安心を提供することだと思っています。