肥後医育塾公開セミナー

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平成20年度 第3回公開セミナー「見直そう! 肩・腰・膝の痛み」

【講師】
順天堂大学医学部整形外科教授
黒澤 尚

『中高年の膝の痛み』
能動的な治療意識して 「歩く」ことで症状緩和


  ひざの痛みはほとんどの場合、変形性膝(ひざ)関節症によるものです。ひざ関節の軟骨に劣化が起きることで痛みなどを生じます。
 ひざ関節は、軟らかく弾力性に富んだ関節軟骨によって覆われています。この滑らかさがあるからこそ摩擦もなく、ひざを動かし続けることができるのです。
 軟骨は、何らかの原因ですり減り、そのために炎症が生じて、痛み、腫(は)れ、水がたまるなどの症状が起きます。軟骨がすり減るはっきりした原因はまだ分かっていませんが、単なる「使い過ぎ」ではありません。
 関節症は50歳以上の方に起きやすく、特に女性は、男性の3〜4倍、高い頻度で発症します。理由には女性ホルモンが影響していると考えられています。女性ホルモンには軟骨を守る性質がありますが、50歳を過ぎると、この働きが低下するためです。
 肥満もよくありません。肥満である人は、そうでない人に比べて4倍、膝関節症になりやすいのです。肥満にかかわる食事、運動、体重維持といった生活の仕方は大きく影響します。変形性膝関節症は、高血圧、高脂血症、糖尿病と同じように「生活習慣病」と考えるべきです。ですから膝関節症の場合も、それらの病気と同様に、自分でできる「自助療法」が大いに効果があります。
 治療法として最もお勧めしたいのが、痛まない範囲で歩くことです。こう言うと、ひざの痛みに悩む多くの人は「歩いたらますます悪くなるのでは」と、心配されるかもしれません。しかし、歩く方法は、ひざの痛みそのものを軽くする、あるいはなくすためにとても有効な治療法です。
 関節の土台になっている骨は軟骨と同じく、重みを掛けることが新陳代謝に不可欠です。そのため、力が掛からない、重みが掛からない状態になると、骨はどんどん萎縮(いしゅく)していきます。それは筋肉も靱帯(じんたい)も同じ。防ぐには、動きや重みを掛けなければなりません。そうすることで、傷んだ軟骨も回復し、萎縮した筋肉や骨、靱帯も少しずつ正常に向かいます。
 適度に歩くことは治療になります。これと併せ、「筋肉体操」も実践してください。次に主なものを挙げます。
 「脚上げ体操」…畳の上に仰向けで寝て、ひざを伸ばしたまま片足を徐々に上げ、5秒間静止したらゆっくり戻します。片側20回ずつで1セット、朝と晩で計2セット。
 「横上げ体操」…横向きに寝て、ひざを伸ばしたまま足を少しずつ上げ、5秒間静止したらゆっくり戻します。片側20回ずつで1セット、朝と晩で計2セット。
 「ボール体操」…ひざを伸ばしたまま両側の腿(もも)の間に挟み、ボールをつぶす気持ちで力を入れ、1から5まで数えます。20回で1セット、朝と晩で計2セット。
 変形性膝関節症への対処法で重要なのは、受動的でなく能動的な治療を意識することです。ひざが痛いからといって、立つ、歩く、動く―といったことを拒み、じっとしたままだと、軟骨や骨、筋肉、靱帯は次第に衰えていきます。そうした弱ったひざで動こうとすると、弱った分だけ一層痛みを感じます。
 また、安静状態が長期間続くことで心身のさまざまな機能が低下する「廃用症候群」に陥り、まさしく悪循環です。
 これを良循環に変え、有意義で活動的な第二の人生を送ってもらいたいと願っています。