【講師】 |
『「熊本県女性の9割が子宮を守るチャンスを放棄しています」』
重要な子宮頸がん検診
過去五十?六十年のがんの罹患(りかん)率を見てみると、子宮頸がんは確実に減少しています。その背景には子宮頸がん検診のシステムが確立したことがあります。日本の子宮頸がん検診には約五十年の歴史があります。一九八二年の老人保健法で、二十年かけて子宮頸がんを半減させる目標が掲げられ、三十歳以上のすべての女性の検診を、行政が全額費用を負担して行うことが決められました。その結果、子宮頸がん検診導入前の六一年当時、0・2%しかなかった受診率が、九〇年には28・3%まで上昇。二〇〇一年には厚生労働省が死亡率減少の効果があるがん検診のトップと評価しています。
ところが、ここ十年の間に、子宮頸がん検診のシステムは二度にわたって変更されました。まず九八年、行政が全額負担していた子宮がん検診の費用が地方交付税による財源措置に切り替えられ、個人負担が必要になりました。その結果、熊本県では30%近かった受診率が18%に低下。受診率も市町村により10%以下から80%近いところまで大きな差が生じています。
そして二〇〇四年、老人保健法による子宮がん検診の見直しがあり、受診年齢が三十歳から二十歳以上に引き下げられ、二年に一回に限定されました。この変更を検証してみましょう。
日本人の子宮頸がんには、最近変化が見られています。一つは若い患者の増加。これは若い女性の性行動が激しく変化したことによるものです。子宮頸がんを引き起こすヒト乳頭腫ウイルスの感染がまん延しています。そのため受診年齢を引き下げたのは、まさにタイムリーだったといえます。
二つ目は、発見時に進行している腺がんが多くなったこと。子宮頸がんは子宮の入り口という目に見えるところにできるがんなので見つけやすく検診もしやすいのですが、子宮頸部には入り口の中に入った子宮頸管という部位があり、これは外から見られません。ここにできるのが、たちの悪い腺がんなのです。熊本大学で腺がんを発症した女性たちを調査してみると、過去一年にさかのぼると40%、二年では50%の患者さんが子宮頸がん検診を受けていたことが分かりました。つまり子宮頸がん検診で発見できず、出血やおりものなどの異常で受診したときに進行した腺がんが見つかったのです。検診は完ぺきではありません。必ず外れる人がいます。二年に一度の検診で、果たしていいのかと不安になります。
いま、熊本の女性に何が起きようとしているのでしょうか。減少傾向にあった子宮頸がんの罹患率が九五年を境に緩やかな上昇に転じました。それも三十代という若い女性の増加が目立っています。二十、三十代の女性で一番多いがんが子宮がん(ほとんどが子宮頸がん)、四十、五十代でも乳がんに次いで第二位です。さらに残念なことに、現在、熊本の罹患率は全国を上回っているのです。
熊本県の子宮頸がん検診の受診率は18%ですが、まだまだ二十代の女性は低く、それらを考慮すると、熊本県の女性の約九割が子宮頸がん検診を受けず、子宮を守るチャンスを放棄しているといえるでしょう。
解決のためには、二十代以下でも性行為の経験のある女性は必ず子宮頸がん検診を受けること。二年に一回の受診原則は、これまで一貫して受けていて異常のなかった人のみに通用することで、羞恥(しゅうち)心と少しの自己負担は覚悟して、毎年、できれば半年に一回、子宮頸がん検診を含めた婦人科検診を受診することが必要です。また検診の際は、子宮の出口だけでなく子宮内部の頸管の細胞を採られたことを医師に確認してください。