まいらいふのページ

2010年 「まいらいふ」4月号

脂肪性肝疾患
正常の肝臓には少量(重量で約3〜4%)の脂肪が含まれていますが、全肝細胞の30%以上が脂肪滴を持つほどに中性脂肪が増加すると、脂肪肝と呼ばれます。脂肪肝は肝炎や肝硬変に進行する場合があります。それらが今回取り上げる脂肪性肝疾患です。

はじめに

 脂肪肝の正確な診断は肝生検の病理組織像で行いますが、腹部超音波(エコー)検査でおおよその診断はつきます。血液検査では、脂肪肝の進行に伴って、肝細胞が壊れた指標である血漿(けっしょう)アラニントランスアミナーゼ(ALT)値が上昇します。
 脂肪肝やそれがもとになった脂肪性肝炎は、多くの原因で発症しますが、重要なものは飲酒と肥満や糖尿病で、原因によってアルコール性肝障害と非アルコール性脂肪性肝疾患に大別されます。両者とも非常によく似た病態を示し、ともに肝炎が持続すると肝の線維化が進行して肝硬変症に至るのです。


アルコール性肝障害

 アルコール(エタノール)は、消化管で吸収されて門脈からの血流により肝臓に至り、大部分が肝臓で代謝されます。アルコールを摂取すると、脂質の吸収が増える上、脂質の合成が増加し分解が阻害されるため、肝細胞の脂肪化が生じます。
 また、アルコールは代謝の過程で、末梢血液循環の障害を起こしたり、細胞障害を引き起こす活性酸素を産生したり、低酸素状態を引き起こしたりと、病因となります。さらに、生じた代謝産物のアセトアルデヒドは、細胞のエネルギー産生の場であるミトコンドリアを傷害したり、蛋白(たんぱく)と結合して抗原性を持つようになって免疫反応を引き起こしたり、肝臓の線維化を亢進(こうしん)させたりと、強い肝毒性を示します。このようなことから、アルコール性肝障害では特徴的な脂肪肝や肝炎を発症するのです。これが進行したアルコール性肝硬変は、現在、全肝硬変例の約14%を占めています。



危険な飲酒量

 一般的には、5年以上の常習的な(週に4〜5日以上の)飲酒で、男性の場合1日平均純エタノール量60gを超えて摂取する場合です。ビールで大瓶3本、日本酒で3合、焼酎で1.5合、ウイスキーでダブル3杯に相当します。女性は男性よりアルコール性肝障害を起こしやすく、男性の3分の2程度が相当とされています。日本酒に換算して1日5合(エタノール100g)以上5年以上の大量飲酒者では、肝障害の危険度はさらに大きくなります。日本では、大量飲酒者が約228万人と試算されていますが、これはB型肝炎ウイルス持続感染者約120万人、C型肝炎ウイルス持続感染者約200万人を上回る数です。


予防と治療

 アルコール性肝障害の特徴の一つは、断酒によって改善することです。ただし、進行した肝硬変(非代償性肝硬変)に至ると、正常肝機能に戻すことは困難です。肝臓の検査値異常を認める場合には断酒が望ましいのですが、場合によっては節酒でよいこともあります。飲酒量と肝障害の程度には個人差がありますので、医療機関での検査の上で飲酒量の調節が必要です。


非アルコール性脂肪性肝疾患

 糖尿病や肥満に伴ってアルコール性肝障害に似た肝障害が起こることが分かり、まとめて非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease: NAFLD)と呼んでいます。NAFLDは、飽食と運動不足による過栄養を基盤としたメタボリックシンドロームの肝臓での表われ方といえます。過栄養性の脂肪肝は進行しないと考えられていましたが、肝硬変や肝がんに至ってしまう炎症を伴う疾患群があることが明らかとなって、非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis: NASH)と呼ばれるようになりました。
 NASHはNAFLDの重症型と考えられ、NAFLDの約10%と推計されています。NASHでは、過栄養、高インスリン血症を基盤とした肝への脂肪蓄積(第一ヒット)に、酸化ストレスや炎症性サイトカインの関与など(第二ヒット)が加わり、肝炎が発症し肝細胞の障害が進行すると考えられています(図1)。NASHから肝硬変へ進行する頻度は10年で約20%とされ、肝硬変へ至ったNASHには肝がんが発生する場合があります。
 NAFLDは先進国における肥満人口の増加により急増し、近年では最も重要な肝疾患の一つとなっています。米国では人口の4分の1から3分の1がNAFLDに、約3%がNASHにり患していると推計されており、ウイルス性肝障害者よりはるかに多いため社会問題化しています。日本でも、健診受診者の20〜30% に脂肪肝が認められ、成人の0.5〜1% がNASHと推定されます。NAFLDの90%以上の方がほかの生活習慣病を合併していて、その頻度は肥満の程度とともに増加します。BMIが25〜30の軽度の肥満者でも約50%に、30以上の中等度以上者では約80%にNAFLDを認め、糖尿病患者では約半数に認めることが報告されています(図2)。NASHも約4分の3に肥満を伴っており、肥満のない場合も多くは内臓脂肪沈着(内臓肥満)やインスリンに対する反応性の低下が認められます。近年、NAFLDに遺伝的要因が関与していることも分かってきました。
 NAFLDは、心臓・脳血管の閉塞性疾患の合併が多いことからも、生命にかかわる可能性のある疾患です。脂肪肝の程度が強くなると、メタボリックシンドロームや頸動脈(けいどうみゃく)硬化症の合併率が高くなることが示されています(図3)。つまり、肝障害の進行だけでなく、心臓・脳血管性の急死の元となる動脈硬化性疾患の合併を抑える意味でも、NAFLDの予防、治療は必要なのです。


※BMI (Body mass index) =体重(kg)/身長(m)2
日本では、男女とも種々の合併症の頻度が最も少ないBMI22を標準体重とされています。
1999年の肥満学会では、BMI≧25の者を肥満、BMI<18.5の者を低体重と判定するとされています。


治療

 NAFLDの治療は、適度の運動と食事療法といった生活習慣の改善が基本です。
 食事療法は基本的には食事制限となりますが、急激な体重の減少や極端な食事制限を行うと末梢組織から脂肪が動員されて脂肪肝を増悪させることもあるので要注意です。NAFLDでは標準体重(BMI=22)当たり25〜35kcal/日、蛋白1.0〜1.3 g/s、脂肪エネルギー比20〜25%の食事を基準とし、飲酒は控える必要があります。脂肪の極端な制限は脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、 K)の不足につながり望ましくありませんが、飽和脂肪酸の過剰摂取は血中コレステロールを上昇させるため、バター、牛乳、獣肉類の制限は必要で、糖尿病食に準じた内容となります(表1)。
 生活改善で効果のない場合や、すでに進行した病態では薬物治療の併用が必要で、肝庇(ひご)護剤、抗酸化作用のあるビタミンCやE、糖尿病薬のインスリン抵抗性改善薬、高脂血症治療薬などが使われます。
 NAFLDと診断された場合は、NASHへ移行する前に正常の肝臓に戻るように、まず生活習慣の改善が重要です。


熊本大学講師
医学部附属病院
消化器内科

田中基彦