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2010年 「まいらいふ」3月号

加齢に伴う首(頚椎(けいつい))の整形外科疾患
肩の痛みや手のしびれだけでなく、足のふらつきや排尿障害などさまざまな症状が現れる、加齢に伴う頸椎の疾患。今回は、頸椎の整形外科疾患についてお伝えします

はじめに
[図1]頚椎

 首の骨は7つの骨(頚椎)が重なってできており、それらの骨と骨の間には軟骨でできた椎間板(ついかんばん)が挟まれてクッションの役割を果たしています(図1)。頚椎の後方には骨(椎弓(ついきゅう))、椎間板、靱帯(じんたい)(骨と骨をつないでいる強じんな線維組織)で囲まれ閉ざされた空間(脊柱管(せきちゅうかん))があり、その空間を、脳につながる神経系の本幹(脊髄(せきずい))が腰部まで通っています。さらに頚椎の骨と骨の間からはそれぞれ左右1本ずつ脊髄から神経の枝(神経根)が出ており、手の運動や感覚を支配しています。脊髄や神経根は閉ざされた空間を走っていることから、加齢に伴い、骨、椎間板、靱帯が傷み、脊柱管内に突出してくると、圧迫を受けて症状が出てきます。頚椎の加齢に伴う病気としては、以下の病気が挙げられます。


頚椎椎間板ヘルニア
[図2]椎間板ヘルニア

 椎間板は、上記のように各頚椎骨の間にあり、衝撃に対するクッションの役目を果たしています。椎間板の変性は20歳代に始まるといわれています。変性して椎間板に亀裂が入ることにより、後方にある脊柱管に椎間板が飛び出てくるのが椎間板ヘルニアです。椎間板ヘルニアの飛び出た場所によって、脊髄あるいは神経根を圧迫刺激するので、さまざまな症状を呈します。


●症状 首、肩甲骨周囲、片側の上肢の激しい疼痛(とうつう)、しびれで発症することが多いです。手が使いにくい(巧緻(こうち)運動障害)、足が突っ張る、ふらつくなどによる歩行障害、あるいは頻尿や残尿感などの排尿障害がでることもあります。

●診断 レントゲンで椎間板ヘルニアの診断をつけることは困難です。MRI検査が有用ですが、必ずしもすべての椎間板ヘルニアが症状を出すとは限りません。そのため身体所見と画像所見を総合的に判断し、場合によってはヘルニアに圧迫されている神経根を、治療もかねてブロックし診断することもあります。

●治療
《保存的治療》 疼痛に対し痛み止めの内服を行い、頚部を安静にする目的で頚椎装具を着けます。症状が強く、体を動かすのも困難な場合、安静入院となることもあります。疼痛は時間とともに軽減してくることが多いですが、痛みが持続する場合には、神経に直接痛み止めを入れる(神経根ブロック)こともあります。3〜4カ月保存的に治療を行っても激しい疼痛が持続する場合や、上下肢のまひ、排尿障害、あるいは歩行障害が認められる場合は手術適応となることがあります。

《手術加療》 椎間板が脊髄の前方に存在し、首の後方からヘルニアを摘出するのが困難なため、通常、前方からの摘出を行います。脊髄より外側方向に飛び出た椎間板ヘルニアは後方からの摘出も可能で、手術侵襲(しんしゅう)も少なくてすみます。前方固定の場合、ヘルニアを起こした椎間板を前方から切除し、飛び出たヘルニアの塊を摘出します。椎間板を除去した空間には、骨盤の骨(腸骨)を一部採取し移植します(図5を参照)。


頚椎症

 頚椎、椎間板あるいは靱帯は年をとるにつれて傷んできます(変性)。その中でも椎間板は早期から変性しやすく、椎間板の変性により椎間板の厚さが薄くなります。それにより頚椎にも骨の変形、出っ張り(骨棘(こつきょく))が生じ、靱帯も厚くなってきます。これらの変化のため、骨、椎間板あるいは靱帯の一部が神経の通り道に出てくることにより、さまざまな症状が出てきます。脊髄を圧迫すると脊髄症と呼ばれ、神経根を圧迫すると神経根症と呼ばれます。


●症状
《頚椎症性脊髄症(図3)》 50歳以上での発症が多く、男性が多いとされています。脊髄が圧迫されることにより両手あるいは両足のしびれで発症することが多く、症状が進行すると手の細かい作業(字を書く、ボタンをはめる、はしを使うなど)ができなくなる(巧緻運動障害)、体のふらつきや下肢のつっぱりのため歩きにくい、排尿が障害されるなどの症状が出てきます。


《頚椎症性神経根症(図4)》 頚部、肩甲骨周囲、上肢の疼痛、しびれ、手に力が入りにくいなどの症状が出てきます。首を後ろや痛みのある方に傾けると、痛みの増強がみられます。


●診断 レントゲン上、椎間板の厚さが薄くなったり、骨棘がみられたりします。首を前後に倒した際の側面レントゲンで、頚椎のぐらつきを認めることもあります。神経の圧迫の程度を評価するためには、CT、MRI検査を行います。神経の圧迫部位が何カ所もみられることもあり、臨床症状と併せて診断します。

●治療
《保存的治療》 頚椎症性脊髄症に関しては基本的に症状の改善が難しく、進行することが多いため、症状に応じて手術加療を勧めています。頚椎症性神経根症に関しては、頚部の安静目的で頚椎装具を着けたり、痛み止めの内服を行うことで症状が改善することが多く、手術を行わず外来で保存的に診ることが大半です。しかし3〜4カ月の保存的加療で症状が持続する場合や、まひ症状を認める場合は手術を行うこともあります。

《手術療法》
頚椎症性脊髄症  1カ所だけが悪い場合、前方固定術(図5)を行い、2カ所以上が悪い場合、後方から神経の通り道を広げる椎弓形成術(図6)を行うことが多いです。これにより脊髄が後方にふくらむ余裕ができ、圧迫が軽減します。

頚椎症性神経根症 神経根の通り道(椎間孔)を後方から広げる手術(椎間孔拡大術)を行います。神経根の圧迫を後方から取り除くことにより症状の改善が得られます。



最後に

 加齢に伴う頚椎の変性疾患の中でも、頚椎症性脊髄症は、両手、両足のしびれ、手が使いにくい、歩行時にふらつくなどの症状で発症することが多く、脳の病気ではないかと心配される方もいらっしゃいます。そのような症状を認めた場合は一度近くの専門の医療機関を受診することをおすすめいたします。