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2009年 「まいらいふ」11月号

肺がん
年々増加し、がんの部位別死亡率で、男性は90年代から1位という肺がん。 今回は、肺がんの診断や治療、今後の展望などについてお伝えします。

肺とは
[図1]正面より肺を見る

 肺は呼吸をつかさどる臓器で、右肺は上葉、中葉、下葉の3つの肺葉に、左肺は上葉と下葉の2つに分かれます(図1)。さらに、肺葉は区域という単位に分けることができます。最終的には肺胞という大きさ0.1―0.2mmの小さい部屋に分かれます。この肺胞に接して毛細血管が走行しており、ここで酸素と二酸化炭素のガス交換が行われます。


肺がんの現状
[図2]部位別がん粗死亡率(男女別)(1958年〜2005年)

国立がんセンターホームページより引用 
http://ganjoho.ncc.go.jp/pro/statistics/gdb_trend.html?1%3

 肺がんは年々増加しています(図2)。グラフは2005年までの死亡率を示していますが、2007年には男性4万7685人、女性1万7923人が肺がんで死亡しています。わが国のがんの部位別死亡率において、肺がんは男性では90年代から1位となり、女性でも2007年には胃がんを抜いて2位になりました(1位は大腸がんです。グラフでは大腸がんを結腸がんと直腸がんに分けて示してあります)。肺がんは、顕微鏡検査で、腺がん、扁平(へんぺい)上皮がん、大細胞がん、小細胞がんの4つに分類されます。扁平上皮がんと小細胞がんは、喫煙との関連が指摘されています。この4種の肺がんは治療法の違いから、小細胞がんと非小細胞がんに大別されます。
 また、肺がんの進行度(病期)は、TA期、TB期、UA期、UB期、VA期、VB期、W期に分類されます。非小細胞がんの手術療法後の5年生存率(手術を行った後、5年以上生きる確率)は、全体では61.6%です。病期ごとでは、TA期83.3%、TB期66.4%、UA期60.1%、UB期47.2%、VA期32.8%、VB期30.4%、W期23.2%です。小細胞がんに対しては、主に抗がん剤や放射線治療が行われます。小細胞がんの生存期間中央値(診断された後、半数が死亡するまでの期間)は、限局型で16―24カ月、進展型で6―12カ月と報告されています。なお、病期分類は改定が進んでおり、近く一部変更になる予定です。


肺がんの症状

 初期には無症状ですが、病状が進行するにつれて自覚症状が出てきます。主な症状は、せき、たんや胸の痛みで、呼吸困難などを認めることもあります。


肺がんの診断

 肺がんの発見に有用な方法として、喀痰(かくたん)細胞診(たんの中にがん細胞がないか調べる)、レントゲン検査、CT検査が挙げられます。また、PET検査も治療方針決定に有用です。これらの検査で肺がんが疑われる場合、生検(肺から細胞もしくは組織を採取する)を行い、顕微鏡診断を行います。


肺がんの治療

 治療法の選択について、非小細胞がんを表1に、そして小細胞がんを表2に示します。非小細胞がんでは、病期TA−UB期(周囲臓器への浸潤(しんじゅん)がな いか、あっても限局的である。リンパ節転移があっても病巣の近くに限られる)が手術の対象でVAおよびVB期の症例は手術を行うかどうかを個別に判断します。手術以外の治療法として、放射線治療と抗がん剤治療があります。また、患者さんの体力も治療法選択の重要な要素です。一方、前述のように小細胞がんの場合は抗がん剤や放射線治療が主体ですが、限局型の場合、手術療法を併用する場合もあります。


@ 手術療法

 肺がん手術の標準術式は肺葉切除(図1参照)とリンパ節郭清(かくせい)(病巣周囲のリンパ節を切除する)です。周囲臓器への浸潤がある場合は、その臓器の合併切除を行うこともあります。
 近年CTなどの画像診断の発達で、小さな肺がんが見つかるようになりました(図3)。このような肺がんに対して、肺葉切除では正常部分を取り過ぎると考えられるようになりました。肺は再生しないので、切除しただけ肺活量は減ってしまいます。標準術式である肺葉切除は、5つある肺葉の1つを切除するので、単純に計算すると20%肺活量を失います。 そこで当科では、肺機能維持を目的に、狭い範囲の切除方法である区域切除を積極的に行っています。図4は、右肺上葉に肺がんがある場合を示しています。右肺上葉はS1、S2およびS3の3つの区域から構成されています。肺がんはS3にあるので、S3区域切除にすれば、上葉切除では切除するS1とS2を残すことができます。ただし、区域切除は肺葉切除に比べ、より詳しい知識と高度の技術を要します。このため、進行がんに対する拡大手術の場合と同様に、早期がんに対する区域切除も、肺手術に精通している外科医(例えば、呼吸器外科専門医)がいる施設での治療をお勧めします。


A 放射線治療

 年々進歩しています。CTを併用してがん病巣の立体画像を描き、立体的にそこを照射することで病巣に放射線を集中させる方法が取られます。また、呼吸による肺の伸び縮みに伴いがん病巣も移動しますので、呼吸に同期して照射する定位放射線療法も実用化されてきています。抗がん剤と放射線を併用する化学放射線療法が行われることもあります。また、転移巣に対して放射線治療が行われることもあります。
 陽子線あるいは炭素イオン線を用いた粒子線治療も研究が進んでいます。ただし、施設や運用に多額の費用がいるので、国内に数施設あるだけです。



B 薬物療法

 外科治療や放射線治療のみでは十分な治療効果が期待できない肺がんに対し、抗がん剤治療(分子標的薬剤を含む)を行います。抗がん剤治療によって生存期間の延長およびQOL(生活の質)の改善も得られます。また、術後再発の危険に対する予防的抗がん剤治療も行われるようになってきました。


最後に
熊本大学講師
医学部附属病院呼吸器外科

森 毅

 肺がんの予防に限らず、禁煙は重要な課題です。喫煙者への禁煙指導、公共の場所での分煙なども重要ですが、若年者の喫煙防止が最も重要と考えます。このためには小学生時代からたばこの害について教育することが必要だと思います。