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2009年 「まいらいふ」9月号

膵(すい)がん
特徴的な症状がなく、発見時には進行してしまっていることが多いという膵がん。 それだけに、病態を正確に判断して最適な治療法を選択することが大切です。 今回は、近年、増加傾向にある膵がんについてお伝えします。

膵臓(すいぞう)とは
[図1a]膵臓と周囲臓器の位置関係
[図1b]膵臓の部位分類

 膵臓は、長さ約15cm、幅は3 cm?5 cm、厚さ約2 cm、重さ約70gで、図1aのように上腹部の胃の背側にある左右に細長い臓器です。体の右側(十二指腸側)から体の左側(脾臓(ひぞう)側)にかけて、膵頭部・膵体部・膵尾部と3つの部位に分けます(図1b)。色は淡黄色調からサーモンピンクで、弾性のある柔らかな臓器です。
 膵臓の主な機能は2つあります。一つは消化酵素を産生し十二指腸内へ分泌して、炭水化物・タンパク質・脂肪を消化する役割(外分泌機能)です。もう一つは、インシュリンやグルカゴンなどのホルモンを産生・分泌して血糖をコントロールする働き(内分泌機能)です。


膵がんの疫学
[表1]癌腫別死亡者数

 膵がんは近年増加傾向にあり、わが国のがんの部位別死亡者数では第5位で、年間約2万5000人が死亡しています(表1)。膵がんは、外分泌機能を担う細胞の一つである膵管上皮細胞から発生することが多い悪性腫瘍で、膵臓の腫瘍(しゅよう)の85?90%を占めます。消化器がんのなかでは最も予後不良な疾患で、日本での膵がん全体の5年生存率(診断された後5年間生きた人の割合)は6%程度です。腫瘍径1cm以下の小膵がんでも、5年生存率は57%しかありません。
 肺がん、咽喉頭がんなどと同様に、喫煙は膵がん発症の危険因子なので、膵がん予防のためにも禁煙は大切です。男性では、禁煙により膵がんの22%は予防できると考えられています。膵がんの進行度は、?期、?期、?期、?a期、?b期に分類されます。検診による膵がんの検出率は極めて低く、しかも最も進行した?b期で発見されるケースが全体の約半数を占め、?期、?期は1割未満しかありません。発見時には進行してしまっていることが大部分なのです。


膵がんの症状

 膵がんに特徴的な症状はありません。また無症状で見つかることも少なくありません。病状が進行するにつれて自覚症状が出てきます。主な初発症状は、腹痛、黄疸(おうだん)や背中の痛みで、次いで体重減少や消化不良症状などを認めます。黄疸の場合には皮膚が黄色くなることよりも、尿が濃くなることで気付くのが多いようです。また糖尿病の急激な悪化は、膵がん診断のきっかけになることがあり、注意信号です。


膵がんの治療

 がんの治療法には、主として3種類あります。外科的切除、放射線治療、そして薬物療法です。腫瘍が局所にとどまり、残存しないように切除できる時には、外科的切除の適応になります。一方、腫瘍が局所にとどまっているものの、重要な血管や隣の臓器に浸潤し、切除しても腫瘍が残存する場合には、放射線治療の適応となります。外科的切除と放射線治療は、がんが局所にとどまっている時に有効な治療法なので、局所治療といえます。
 腫瘍が局所にとどまらずに遠隔臓器に転移している場合には、局所の腫瘍と転移巣のすべての病巣に対して治療を行う必要があり、薬物療法の適応となります。つまり、薬物療法は全身治療といえます。これらを組み合わせた治療(集学的治療)を行う場合もあります。それぞれの患者さんの病態を正確に判断して最適な治療法を選択することが大切ですので、がんの進行度を正確に診断できる画像診断の専門医と各々の治療法に精通した専門医がいる医療機関での治療をお勧めします。


? 外科治療

 膵がんの手術は技術的な難度が高く、さらに手術後の合併症の頻度が高く、しかも重篤な合併症に陥る場合が少なくありません。手術症例数の多い施設では、合併症発生頻度が低く、起きた場合でも適切な対応が可能です。したがって、膵がんの外科治療は専門の外科医がいて手術症例数の多い施設で受けることが推奨されています。膵頭部のがんに対しては、膵頭十二指腸切除術が行われます。図2のように、膵頭部、胆管、胆のう、および十二指腸(胃の一部も含みます)を切除します。切除した後に、胆汁が流れるルート、食事が流れるルート、膵液が流れるルートを再建します(図3)。膵体部や尾部のがん(図4)に対しては、尾側膵切除が行われます。図5のように、膵体部と尾部および脾臓を切除します。外科切除は、膵がんに対して完治が望める唯一の治療法です。しかしながら、時にがんの再発を認めることがあります。それで現在は、外科切除に放射線治療や薬物療法を組み合わせた集学的治療を行うことが多くなっています。


? 放射線治療 

 転移は認めないものの腫瘍が周囲に浸潤して腫瘍をすべて切除できない時に行われます。放射線の効果を増強するために放射線治療の時に抗がん剤を同時に投与することもあります(化学放射線療法)。

? 薬物療法

がんが膵臓だけにとどまらず遠隔転移を認める膵がんの場合には、抗がん剤を用いた治療が選択されます。抗がん剤の治療を開始する前には、必ず組織を採取して顕微鏡を用いたがん細胞・がん組織の診断が必要です。超音波内視鏡(EUS)、 CT、内視鏡的逆行性膵管造影(ERP)を行い、細胞や組織を採取して検査します(図6)。これらの検査には、特殊な機器と技術が必要です。抗がん剤の第一選択薬として塩酸ゲムシタビンが用いられています。2001年にこの薬剤が膵がんに対して用いられるようになってから、治療成績が改善してきました。その後TS―1という抗がん剤も膵がんに対し使用可能となり、今後さらなる改善が期待されます。
 膵がんが進行すると、さまざまな症状が出現してきます。したがって、症状を和らげるための治療を同時に行うことが必要です。痛みを取り除いたり食欲を増進させたりする治療のことです。症状を和らげて、良好な体調を維持しながら治療を行うことは大切なポイントです。


最後に
熊本大学講師
大学院医学薬学研究部
消化器外科学分野

?森 啓史

 膵がんは治療が難しい疾患で、現在多方面から治療法の開発が行われています。現段階では、がん専門医、薬剤師、専任の看護師や栄養士などのメディカルスタッフがチームを組んでいて、しかも数多くの治療経験を持つ病院を選択することが重要だと思います。