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2009年 「まいらいふ」7月号

慢性腎臓病(CKD)
 3カ月以上の期間、腎機能の低下や腎臓の異常を示す所見が持続するものを慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease、略してCKD)と言います。透析療法が必要になるリスク が高いだけではなく、脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞などの血管の病気にもなりやすいことが分かり、最近、注目されるようになりました。今回は、この慢性腎臓病(CKD)についてお伝えします。

腎臓はどんな臓器
[図1]正常の糸球体(PAS染色)
ここで血液から原尿がろ過される

 タバコで肺が悪くなったり、お酒で肝臓が悪くなったり、太って糖尿病になったという話はよく耳にすると思います。腎臓は、それらに比べてなじみの薄い臓器ですが、尿に関係あることはご存じと思います。腎臓は血液から液体部分をろ過して尿を作る臓器です。体の中で不要になった老廃物や水、ナトリウム、カリウムなどを尿として排せつしています。そのほかにも血圧をコントロールしたり血液の赤血球数を調整したり、体内のカルシウムやリンの調整など、さまざまな働きをしています。
 普通の人では1分間に約5リットルの血液が心臓から全身に送られ、酸素や二酸化炭素、栄養素や代謝で生じた老廃物を運搬しています。その20%の1分間約1リットルの血液が腎臓に流入し、尿の材料になります。腎臓に糸球体(図1)という部分があり、ここで血液から尿の材料(原尿)をろ過します。正常の人では、1分間に100?120ミリリットルの原尿がろ過されます。これは1日あたり150リットルという膨大な量になります。この原尿から必要な成分や水分を再吸収して、最終的に1日に1?2リットルの尿が排せつされています。

腎臓の機能は
どうやって測定する?

 糸球体からろ過された原尿の量を糸球体ろ過量(GFR)と言い、一般的に腎機能を示す指標として用いています。前述したように正常の人が100ミリリットル/分ですから、糸球体ろ過量が50ミリリットル/分になっていれば、腎機能は正常の半分というわけです。ただ、この糸球体ろ過量を測定するには一定時間の尿を全部ためる必要があります。血液とこのためた尿とで、ある物質の濃度を同時に測定して糸球体ろ過量を計算します。通常の診療ではクレアチニンという物質を測定しますので、クレアチニンクリアランスと言うこともあります。
 尿をためるのは思いのほか大変です。通常24時間ためますが、その間外出も難しく、また入れ物やためた尿の量を測定する道具も必要です。そのため、数年前に日本腎臓学会が主催して日本人数千人分の正確な糸球体ろ過量と血清クレアチニン濃度を測定して、血清クレアチニン濃度と性別、年齢から糸球体ろ過量を推定する方法を確立しました。この推定糸球体ろ過量をeGFR(イージーエフアール)と言い、血液検査で血清のクレアチニン濃度を測定しさえすれば計算できます。



腎臓と血管の意外な関係

 正常の人の腎臓は2つあり、両方で約300g程度です。ここに1分間に1000ミリリットル以上の血液が流れているわけですから、言うならば腎臓は血管の塊みたいな臓器です。この血流量を保つために、腎臓は体液の量やホルモン濃度を調整して血圧を一定に保つ役割を持っています。ですから、腎臓は高血圧の原因に深く関与する臓器であり、また高血圧によって影響を受ける臓器でもあります。また、血管の臓器ですから、全身の血管の病気をのぞき見る窓にもなるわけです。


慢性腎臓病とは

 正常の腎臓は、生きていくのに必要な機能の5?10倍の能力を持っています。そのため腎機能が正常の10?20%まで低下しないと自覚症状はほとんど出ません。そのため本人が気付かないうちに腎機能が低下している人がたくさんいます。日本での推計では、腎機能が正常の60%以下になっている人が1900万人、50%以下の人が400万人近くいると考えられています。このような状態の人を総称して慢性腎臓病と言います。
 表1に慢性腎臓病の定義を示しています。慢性に腎機能が低下している状態を言い、原因疾患は問いません。慢性腎臓病では、どの程度の機能障害かによって病期を分類しています。表2に病期分類を示していますが、ステージ4や5のような高度の障害を伴わないと自覚症状はほとんどありません。
 健診や人間ドックなどで血清クレアチニンを測定していれば、推定糸球体ろ過量が計算できます。病院によっては血清クレアチニンを測定すると推定糸球体ろ過量を自動計算してくれる所もあります。簡便な換算表も色々なところに提示されていますので、一度調べてみてはいかがでしょうか。


慢性腎臓病と血管の病気
[図2]久山町における慢性腎臓病(CKD)の有無と心血管病累積発症率
二宮利治(九州大学)ほか: 綜合臨牀, 55, 1248-1254, 2006

 福岡県に久山町という人口8000人程度の町があります。ここは人の移動が少なく長期間の観察が可能なため、昔から町全体でいろんな病気の原因や発生頻度が調査されています。図2にこの久山町における慢性腎臓病(CKD)の有無と心血管病(狭心症や心筋梗塞)の累積発症率をグラフで示しています。慢性腎臓病があると心血管病を生じるリスクが、男女とも3倍近く増加しています。茨城県、沖縄県、アメリカのサンフランシスコなどでの調査でもこれと同様の結果が得られています。腎臓が悪いと、心臓病や脳梗塞などの病気になりやすいのです。


慢性腎臓病のリスク

 では、どういうものが慢性腎臓病を起こしやすいリスクになるのでしょうか。茨城県の住民検診データから慢性腎臓病のリスクファクターが知られるようになりました。高年齢、高血圧、(2+)以上の血尿、糖尿病、肥満、喫煙がリスクとして重要なものと考えられています。蛋白(たんぱく)尿も重要ですが、持続性の蛋白尿があれば慢性腎臓病と診断されますので慢性腎臓病のリスクには含まれていません。興味深いことにこのほとんどが、今流行のメタボリック症候群のリスクとして挙げられているものです。
 これらのリスクを見ると、年齢以外は、治療や対応が可能なものばかりです。そのため日本中のいたる所で慢性腎臓病についての取り組みが始まっています。熊本市では、国民健康保険の特定検診を受けた際にクレアチニンや尿蛋白を調べて、慢性腎臓病に該当する人にはさらに個別の指導や病院受診勧告が行われるようになりました。皆さんも健診を受け、慢性腎臓病を早期発見して、健康で長生きを目指しましょう。


熊本大学大学院
医学薬学研究部
腎臓内科学
准教授

江田 幸政