まいらいふのページ

2009年 「まいらいふ」5月号

緩和ケアってなあに?
〜がんの治療をしている時、がんの治療が難しくなった時、 つらくないようにがんと付き合っていく方法を知っておきましょう〜 「緩和ケア」という言葉は、最近よく聞くようになりましたが、医療従事者にも一般的にも十分に理解されているとは言えないようです。今回は、最近の緩和ケアの考え方とともに、緩和ケアを受ける方法などについてお伝えします。

 「緩和ケア」という言葉は、最近よく聞くようになりましたが、医療従事者にも一般的にも十分に理解されているとは言えないようです。今回は、最近の緩和ケアの考え方とともに、緩和ケアを受ける方法などについてお伝えします。


緩和ケアの考え方

 WHO(世界保健機関)は、2002年、緩和ケアについての定義を以下のように変えました。『緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より、痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな(霊的・魂の)問題に関してきちんとした評価を行い、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質、生命の質)を改善するためのアプローチである』。 
 つまり、緩和ケアは、がんだけでなく、認知症、脳卒中、パーキンソン病や慢性の腎臓病、慢性の心臓病などいろいろな病気を持っている患者さんやそのご家族の悩みを、病気になって最初のころから皆で支えていくやり方のことなのです。その中で、今回は、『がんの緩和ケア』を中心にお伝えします。
 新しい定義に従うと、緩和ケアを受けるのに終末期であるかないかはまったく関係なく、また、治すための治療が終了している必要もないのです。病気になって、何か困ったことが起きていれば、つまり「がんと先生から言われた。ショックだなあ。どうしたらいいんだろう」というだけでも、緩和ケアを受ける権利があるわけです。以前の定義は、『緩和ケアは、終末期の患者さんのためのケア』という考えでした。このような考えはまだまだ多いと思います。


現在、日本では、年間約30万人の方ががんで亡くなります。将来は、2人に1人ががんで亡くなると予想されています。ですから、進歩しているがん治療のことを理解していくとともに、半数近くは残念ながら再発したり転移したりする現実にも向き合わざるを得ません。緩和ケアについて知ることは、人生を大切に過ごすために必要なことだと思います。


緩和ケアの実際

 がんが進行してくると、いやな症状が出てきます。3大症状は、「痛い」「体がだるい」「食事が取れない」です。
痛みは、患者さんの全員に出現するわけではありませんが、70%から80%の方には出てくる症状です。その痛みの9割は軽くすることができるようになりました。モルヒネやそのほかの薬を上手に工夫することで軽くできるのです。1割は難しい痛みがあるのですが、それも以前に比べると随分軽くすることができるようになりました。ですから痛みで苦しんで過ごすことはないのです。体のだるさや食事が取れなくなることもつらいことですし、ほかにも、がんの種類、転移や再発の場所などに応じて、つらい症状が出てきます。息苦しさ、腹部ぼうまん膨満感、不眠、便秘、さらに病気の進行とともに、筋力低下、歩行困難など日常生活がうまくいかなくなります。緩和ケアの現場では、いろいろな工夫をしながらお手伝いをしています。
 つらいのは体だけではありません。精神的にも落ち込んだりしますし、家庭や仕事、財産のことなど、社会的なことでも困ることが出てきます。「どうして、このような病気になってしまったんだろう?」「死んだらどうなるんだろう?」などと考えてしまうのも当然です。患者さんとともに、ご家族も大きな悩みを抱えることになります。WHOの定義にもありましたが、このような患者さんやご家族の悩みに対しても、「一緒に考えていきましょう」というのが緩和ケアの心です。


どのようにしたら
緩和ケアを受けることが
できるのでしょうか?

 あなたやご家族、友人が、今述べたようないやな症状で困っているとしましょう。次に示す形の中から、ご希望に応じた方法で緩和ケアを受けることができます。「がん治療(手術・化学・放射線療法)をしている途中である」とか、「治療を続けることが難しくなってしまった」というような病気の経過の時期には関係ありません。
 緩和ケアを提供する形としては、@ホスピス・緩和ケア病棟 
A一般病院(病棟)の緩和ケアチームBホスピス・緩和ケアの専門外来
C訪問診療、訪問看護、訪問介護 などの地域における在宅サービス
Dデイケア
があります。


1. ホスピス・緩和ケア病棟

 ホスピスと緩和ケア病棟は、呼び方は違いますが、行われるケアの内容に大きな違いはありません。全国では施設基準(部屋や病棟の広さが基準を満たしている。専門の医師がいる。看護師の数が多い。家族が泊まれる部屋がある。台所があるなど)を満たした施設が190を超えました。熊本県には7施設あります。特徴としては、体や心の苦痛緩和に力を注いだり、面会時間の制限が少なかったり、個室が多かったりと、家族と共に過ごすことを大切に考えていると言えるでしょう。保険診療で行われますので、特別に高額というわけではありません。詳しくは、それぞれの施設に問い合わせるか、今かかっておられる病院の主治医に相談してください。


2. 一般病院(病棟)の緩和ケアチーム

 国が指定した「がん診療拠点病院」(熊本県には8施設)には、必ず緩和ケアチームがあります。身体症状を軽くする医師、精神症状を軽くする医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなどがチームのメンバーです。主治医や担当看護師が、患者さん・ご家族の依頼に対して、相談に乗ります。病院によってやり方が違うので、相談してください。がん診療拠点病院以外の病院でも、最近は、緩和ケアチームが増えてきました。担当の先生に相談されることをお勧めします。


3.ホスピス・緩和ケアの専門外来

 緩和ケアが必要になるのは、必ずしも寝たきりの状態の時ではありません。また、入院はしたくないという思いの患者さんが多いのも現状です。先に述べた専門の緩和ケア病棟を持った病院などでは、定期的な外来受診の中で、緩和ケアを受けることもできます。症状が不安定な時は入院、そして安定したらまた外来通院という選択肢もあります。それぞれの施設でやり方が違いますが、一度相談されてください。


4. 在宅緩和ケア

 自宅で過ごしたいと願う患者さんは、多くおられます。熊本でも、最近、在宅で過ごされる患者さんやそのご家族を支える診療所の医師や訪問看護ステーションが増えてきました。がん治療の専門病院とかかりつけ医との連携についても最近進んできました。


5. デイケア

 緩和ケアにおけるデイケアは、日本ではまだまだの状況です。自宅におられる患者さんが、昼間ホスピス・緩和ケア病棟で過ごされ、夕方自宅に帰られるというやり方は、とても素晴らしいことだと思いますが、日本で広まるのには、もう少し時間がかかると思います。


終わりに

 2007年の「がん対策基本法」制定以降、熊本の緩和ケアもずいぶん広がってきました。熊本大学医学部附属病院が県の「がん診療連携拠点病院」になり、「熊本県がん診療連携協議会」が設置され、その中に緩和ケア部会もできました。まだ十分とは言えないものの、がんの治療と緩和ケアの関係も少しずつ理解されるようになってきました。がん治療の専門医やかかりつけ医の、緩和ケアに関する研修会も実施されています。がんになっても、最新の治療とともに十分な緩和ケアを受けられる日が、そう遠くない将来訪れるでしょう。