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2008年 「まいらいふ」10月号

子どもの甲状腺の病気

心身の調節に欠かせない甲状腺ホルモン

 甲状腺は「のどぼとけ」の下に、チョウが羽を広げて気管を抱くような形でくっついています。正常な甲状腺は柔らかいので触っても分かりません。甲状腺からは、トリヨードサイロニンやサイロキシンと呼ばれる甲状腺ホルモンが分泌されます。これらは全身(脳、心臓、消化管、骨、筋肉、皮膚、その他)の細胞の新陳代謝を活発にする作用があり、精神や身体活動の調節に欠かせません。
 もし赤ちゃんに甲状腺ホルモンが不足すると、脳の発育や成長が遅くなり、知能低下や身長体重増加不良を起こします。先天的に甲状腺機能が低下する病気はクレチン症と呼ばれています。現在日本では出生時に足底から採血して、クレチン症を早期に発見して治療するシステムができています。重い脳障害になるはずの子どもを救えたスクリーニングの成功例としてしばしば引用されています。


バセドー病や橋本病が代表的疾患

 甲状腺ホルモンを作るにはヨードが不可欠で、これが不足すると甲状腺ホルモンは合成されません。日本では食事の中に十分ヨードが含まれていますので、あえて別途に摂取する必要はないとされています。一般には甲状腺ホルモンは一定濃度になるように自己調節されていますが、多すぎても少なすぎても異常が起きます。
 過剰に分泌されると、甲状腺機能亢進(こうしん)症を引き起こします。その代表的疾患がバセドー病で、細胞の新陳代謝が活発になりすぎた状態です。症状としては、多汗・動悸(どうき)・微熱・体重減少・頻脈・手指のふるえ・疲労感などです。甲状腺が腫れて、眼球突出も見られます。
 逆に甲状腺ホルモン分泌が低下するのが甲状腺機能低下症で、橋本病が代表的疾患です。細胞の新陳代謝が低下して、疲れやすい・寒がり・体重増加・便秘・発汗低下・皮膚乾燥などが見られます。橋本病では甲状腺が腫れたり、下肢のむくみが見られることもあります。


早めに気づきたい子どもの疾患
熊本市民病院 
小児科
医師 中村俊郎

 バセドー病や橋本病は成人女性に頻度の高い疾患ですが、小中学生にも時々見られます。先ほど挙げたさまざまな症状があるのですが、子どもは自分から症状を訴えない事も多いようです。症状は進行しているのに、学校検診の時に初めて指摘されて専門医を紹介されることもしばしばです。
 子どもを甲状腺疾患から早く救ってあげるには、保護者が早めに気づく必要があります。甲状腺腫大(しゅだい)は正面から見ても気づきにくい場合もありますが、首を後屈させて見ると分かりやすくなります(右写真参照)。数字として把握できるのは体重の変化です。一定の速度で増えていた体重が急に減ったり伸びが悪くなったり、あるいは逆に急激に増加した場合は甲状腺の病気も考える必要があります。体温や脈拍も参考になりますので、体重と一緒に測ってみるのも良いでしょう。


Q&A
3歳の男の子。首に小指の先ぐらいのしこりがあります。触ると少し痛がります。何か悪いものではないでしょうか。
熊本大学大学院
医学薬学研究部 
小児科 
准教授 三渕浩

 耳の下から2ー3センチのところにコロッとした、弾力のある、動く腫瘤(しゅりゅう)は腫大した頚部(けいぶ)リンパ節だと思います。この年齢の時は、大した病気がなくても首の周りに数個、直径5ミリから1センチのコロコロしたリンパ節が触れることはよくあります。
 アトピー性皮膚炎やひっかき傷が顔や頭にある子、へんとう腫大のある子には特に多く見られます。時に痛みがありますが、通常は痛みもなく何ともありません。風邪をひいた時などに少し大きくなったりしますが、年齢とともに自然に小さくなって分からなくなります。ただし、しこりがだんだん大きくなる、急に大きくなる、発熱や発赤、痛みを伴う、あるいは顔色が悪いなどほかの症状もあるといった時は、検査や治療が必要です。
 そのほか、首の真ん中寄りのしこりには、前頁の甲状腺の病気が含まれますので、少し注意してください。まれですが、生まれつきの嚢胞(のうほう)や瘻孔(ろうこう)が原因で皮膚が盛り上がってくることもあります。気になる時は医療機関にご相談ください。