熊本大学助教大学院医学薬学研究部顎口腔病態学分野 太田和俊
あごが外れるとは、顎関節が通常の運動範囲を越え元の位置に戻らない状態のことを指し、顎関節脱臼といいます。さらに過開口などにより関節包・靱帯、筋肉の損傷などが生じ、関節包がゆるんで脱臼が習慣的になったものを習慣性顎関節脱臼と呼んでいます。こうなると整復はむしろ容易で、自分で整復することも可能となります。
顎関節脱臼は程度や頻度により治療法が異なります。数回ほどの脱臼であれば、病院で徒手的に顎関節脱臼を整復した後、意識的に過開口しないということが最も簡単で有効な予防法だと思います。歯科治療などの長時間の開口は避け、あくびやくしゃみをするときには注意することが大切です。注意とはいえ、あくびやくしゃみを自制するのは困難ですので、なるべく大開口せずにあくびやくしゃみをするように心がけます。例えば、手のひらをオトガイ(下顎の下)にあてて、手のひらの押す力に逆らってあくびやくしゃみをするようにします。この方法により顎は手のひらに支えられ、過開口を避けることができます。また、手が塞がっている場合には、舌先を上顎内側の歯肉につけ舌先が離れないように工夫したり、顎を胸にくっつけるようにしてあくびをすれば、過開口することを防ぐことができます。
脱臼を頻回に繰り返すような場合には、機械的に運動制限をはかる必要があります。具体的には、帽子に固定源を求めて下あごが大きく開くのを制限するオトガイ帽を着用したり、顔の周りを包帯やバンテージで固定したり、上あごと下あごにゴムをかけて開口制限をはかったりする方法などがあります。また、脱臼の原因の一つとして、咬み合わせが関与している場合もあります。特に臼歯部(奥歯)が長期欠損しているような場合には咬み合わせが不安定化し脱臼を起こしやすい状況になるため、補綴物(義歯やブリッジなど)を装着することは重要です。これでも効果がない場合には、上あごと下あごを針金で3-4週間固定することにより咀嚼筋の拘縮をはかる方法もあります。さらに、再発を繰り返すような場合には、外科的な方法(手術)を採る場合もあります。手術では、咀嚼筋である側頭筋の筋膜を縫合するだけの簡単な方法から、顎関節の前方の頬骨を骨切りし顎関節の可動性を機械的に制限する方法や、逆に関節結節をできるだけ平坦化し脱臼位からでも容易に閉口できるようにする方法までいろいろあります。手術を行う場合には、この中から顎関節や全身の状態を総合的に判断し手術法を検討することとなります。いずれにしても、何度も顎関節脱臼を繰り返す場合には、専門医(歯科口腔外科)を受診し適切な処置を受けることが必要だと思います。