|  俳句で「虫」といえば、秋によく鳴く虫のことで、秋の季語。虫の声にひかれて外歩きすることを「虫聞(むしきき)」といって、平安時代からの風流な遊びで、江戸の町でもよく出かけたものである。虫の声は、ときに賑やか、ときにあわれ。日本人は虫の音が好きだ。こんなおしゃれな遊びも今ではめっきり減ったが、高森町で開かれたのによばれて行ったことがある。この町の元気な阿蘇ペンクラブの主催で、これまた元気な「菜の花句会」の皆さんと、高森以外からの人たちが集まった。ちょうどその日は十五夜。名月も虫の音も楽しめるということで、その名も「十五夜虫聞会」。ご案内を受けるとすぐ一句できたので、早速、「出席」の返事に添えた。
 
 
 よき酒もあり虫聞きに来よといふ   中正
 
 当日の会場は観光交流センター。虫の俳句も月の俳句も出て、阿蘇の秋を満喫した。
 
 その中のプリマドンナのやうな虫    山澄陽子
 虫を聴く吾(あ)も一匹の虫となり      松岡典子
 
 みな虫になり切って虫の音に耳を傾ける。ひときわ高く美しく鳴く虫は何だろう。
 
 月を待つけふはやさしき阿蘇の𡸴    丸山ゆきこ
 流浪めく一樹に凭(もた)れ月待つは      坂本あかり
 名月や青春の日の糸車         林 久恵
 
 
 目の前の険(けわ)しい根子岳も、夕暮れともなればやさしく、私たちはすっかり旅人気分。満月を仰いで若かりしころを偲(しの)んだりする。
 句会が終われば延長戦。席を野外に移し、したたるような月光の下、虫時雨(むししぐれ)を聞き、鍋を囲んで銘酒を酌む。またひとつ、宝のような良い思い出ができた。
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