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「あれんじ」 2011年9月3日号

【専門医が書く 元気!の処方箋】
腰痛性疾患の最新治療

 腰痛は日常よく起きる症状で、いろいろなことが原因となります。最も多い原因は腰椎(ようつい)の一部である椎間板や椎間関節の変性(老化による劣化)で、無理な姿勢を繰り返していると症状となって現れるといわれています。日々多忙な生活に追われている現代人にとって、腰痛性疾患を素早く治療し社会復帰することは重要な課題です。
 今回はその最新治療法の紹介を含めて説明します。

はじめに

 「植木鉢を抱えた後から腰痛と足の痛みが始まり、一向に良くなりません」「歩くと腰からお尻にかけての痛みや足のしびれが出て、歩くのがおっくうになってきました」と腰痛を訴えて整形外科外来を受診される患者さんは後を絶ちません。自然治癒することもありますが、痛みが続く場合や、腰に加えて下肢(かし)の症状(痛み、しびれ)がある時には専門的な治療が必要となる場合があります。腰椎椎間板ヘルニア、脊椎分離症・脊椎すべり症および腰部脊柱管狭窄症はその代表的な疾患です。
 最近はよく効く薬がでてきたので外来での治療も多いのですが、その一方で、神経ブロックやリハビリを追加しても症状が悪化する患者さんがおられます。最終的に手術治療を余儀なくされる場合、術後の痛み、合併症の発生、入院期間などを心配されることも多いです。そこで、最初に脊椎内視鏡手術について、続いて腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)について説明します。


◎脊椎内視鏡手術
【図1】内視鏡手術の様子

  脊椎に内視鏡技術が導入されて10年ほど経過しますが、脊椎内視鏡手術では皮膚面から直径16ミリの筒型レトラクターを挿入して手術するため、背中を支える脊柱起立筋を剥離(はくり)する必要がなく術後疼痛が少ないとされています(図1)。
 従来法では筋肉を骨から剥離する際に骨膜損傷を起こすために術後疼痛が起きるといわれています。実際、内視鏡手術では従来法より皮膚切開創が小さい上、術後疼痛の発生が少なく入院日数も少なくなりました。熊大病院では術直後よりベッド上での自己体位変換を行い、翌日に車椅子移動を、2日目には歩行を開始しており、入院期間は10日前後となっています。
 内視鏡で用いるカメラは最近の光学系の発達のおかげで、直接肉眼で見るのと同じくらいの画像を映し出せます(図2)。さらに画像の拡大ができるので、肉眼以上に詳細に患部が観察できます。また、骨や靱帯を切除する手術道具も新たに開発され、安全で的確な手術が行えるようになってきています。ただし、狭く限られた筒内での操作になるために高度な技術が必要で、その技術習得には時間を要します。脊椎内視鏡手術はすべての医療機関で行えるとは限りませんので、手術を検討される患者さんは専門医の受診をお勧めします。


【図2】内視鏡手術の画像


@腰椎椎間板ヘルニア

@腰椎椎間板ヘルニア 【病態と症状】
 椎間板は、骨(椎体)と骨(椎体)の間にあって、線維輪と髄核からできており、クッションの役割をしています。椎間板ヘルニアは、弾力性を失った髄核が線維輪の裂け目を通って突出し、神経を圧迫するために起こる病気です(図3)。椎間板は年齢とともに徐々に変性してくるために、ヘルニアは20歳以降に発症し始めますが、特に不良姿勢での作業や喫煙などで発症しやすくなるといわれています。
 症状としてはまず腰痛が起き、徐々に下肢の痛みやしびれ感が自覚されるようになります。下肢の感覚や筋力が低下したり、下肢を上げた時に痛みが強くなったりした場合に腰椎椎間板ヘルニアを強く疑います。外来ではレントゲン撮影、MRIなどの検査を行い診断を確定します(図4)。

【保存的治療】
 動けないほどの痛みの場合は消炎鎮痛剤や坐薬を処方し、コルセットを装着して安静を促します。内服薬の効果が不十分な場合には神経ブロックを行い、外来で温熱療法を追加します。痛みが軽くなってきたら腰痛体操をしてもらいます。
 これらの保存的治療によって約9割程度の患者さんは痛みが軽減していきます。保存治療で効果がない場合や、下肢の筋力低下、排尿障害があるときには手術をお勧めすることがあります。

【手術的治療】
 以前は筋肉を剥離した後に骨の一部と靭帯を切除し、顕微鏡視下に神経を確認してヘルニアとの癒着を剥離、神経を内側によけた後にヘルニアを摘出するLOVE法が主流でした。しかし最近では、前述の内視鏡を使った低侵襲手術も行われるようになってきました。神経を剥離したりヘルニアを摘出するのは同じですが、皮膚切開創が小さく術後の疼痛も少ない印象です。最近では術後1日目からコルセットを装着せずに歩行してもらいます。


A 腰部脊柱管狭窄症
【病態と症状】
 脊柱管には脊髄や馬尾(ばび)と呼ばれる神経が通っています。椎間板、椎間関節及び黄色靱帯が変性してくると脊柱管の内腔が狭くなってくるために神経が圧迫されるようになります。狭窄は徐々に進行するために症状が現れるのにも時間がかかりますが、初発症状は下肢のしびれ感です。さらに狭窄が強くなると、歩く時に両下肢のしびれ感の増強や疼痛および脱力感が起きて一時的に歩けなくなりますが、しばらく休むと良くなりまた歩けるといった、いわゆる間欠性破行がでてきます(図5)。ヘルニアと同様に、レントゲン撮影とMRIで診断を確定します。

【保存的治療】
 外来では消炎鎮痛剤やビタミン剤の処方により症状が軽減する場合もあります。さらに、狭窄症では神経だけではなく血管も同様に圧迫されているために、血流改善剤の内服により神経を養っている血管の血流を改善させることで症状が軽減することが分かってきています。
 そのほか、腰の屈曲運動を中心とした筋力増強訓練、コルセットの装着そして温熱療法の追加で症状が軽減する患者さんも少なくありません。

【手術的治療】
 最初は保存的治療で十分な患者さんでも、時間が経つにつれて症状が再び現れ、間欠性破行が10分程度と短い間隔になったり、立っているだけで足がしびれてきたり、膀胱直腸障害が出現してくると手術が選択肢の中に入ってきます。従来は大きく皮膚を切開して両側の筋肉を剥離した後に骨と靭帯を切除して神経の圧迫を取り除いていましたが、手術の負担は決して小さいものではありませんでした。
 ヘルニアの患者さんと違って狭窄症の患者さんは高齢者が多いので、低侵襲な手術が必要で内視鏡手術が脚光を浴びるようになってきました。
 小さな切開で筋肉を剥離せずに患部をピンポイントに処置できる脊椎内視鏡手術は、腰部脊柱管狭窄症にこそふさわしい手術だと思います。脊椎内視鏡手術を希望される患者さんは年々増えてきています。


【図3】


【図4】ヘルニアによる神経圧迫


【図5】間欠性破行


最後に

 腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症のすべての患者さんに脊椎内視鏡手術が行えるわけではありませんが、脊椎内視鏡手術は低侵襲であるために術後の疼痛が少なく、安静期間や入院期間が少ないのは確かです。
 腰痛や下肢痛でお困りの方は、一度整形外科外来にいらしてください。


今回執筆いただいたのは
熊本大学医学部附属病院整形外科
藤本 徹 助教
日本整形外科学会専門医
日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医