【専門医が書く 元気!の処方箋】
症状が出にくいだけに注意したい 食道がん・胃がんの診断と治療
毎日、食事をおいしくいただけるのは健康の一つのバロメーターといわれています。その食事をとるために重要な旗ら式をしているのが、食道と胃です。 今回は、食道がんと胃がんの診断と治療について分かりやすくお伝えします。 |
はじめに |
食道と胃は上部消化管と呼ばれ、食事をとるために重要な働きをしています。食堂には飲み込んだ食べ物を胃に送り込む働きが、胃には食物をためるとともに唾液や胃液と混和して消化しやすい形にする働きがあります。この領域にできるがんは食事の通過を障害し、栄養障害を来すほか、周囲臓器に転移を起こしたりすることにより生命を脅かします。今回は食道がんと胃がんについての情報をできるだけわかりやすく解説したいと思います。 |
発生頻度 |
表1
食道がんと胃がんの頻度 我が国の食道がんの発生頻度は、2005年の全国統計で、男性は10万人に23.8人、女性は10万人4.1人でした。熊本県では、2006年の1年間に新たに食道がんと診断された数が210人、死亡した数が133人でした。食道がんの主な原因の一つであるお酒を飲む習慣と関係します。焼酎の大量消費地である南九州は比較的食道がんが多い地域です。 |
原因 |
図1
アルコール代謝酵素の状態と飲酒量による食道がんの危険度 食道がんの原因としてはっきりしているのは飲酒と喫煙です。特に両者の組み合わせは危険性が高く、タバコを吸いながらお酒を飲むとリスクが増大します。ちなみにアルコール・タバコとも世界保健機関(WHO)によって発がん物質と認定されています。 |
症状 |
食道がんの主な症状は飲み込みにくさと食事のつかえです。胸の痛みを訴える方もおられます。しかしながら、このような症状はかなりの進行がんで初めて出現します。早期食道がんのほとんどは無症状です。時に声のかすれ(嗄声)が初発症状であることもあります。これは、食道がんが転移しやすいリンパ節が声を出す神経のそばにあることからでる症状です。病院にかかっても、時として原因不明の嗄声とされることがありますので注意が必要です。 |
診断 |
図2
食道の通常内視鏡(左)とNBI(右) 食道がん・胃がんともに早期発見に最も適した検査は内視鏡です。通常のバリウムによる]線造影検診で食道がんを見つけるのはほぼ不可能です。現在、食道がんのほとんどは内視鏡検査で発見されています。最近、狭帯域内視鏡(NBI)という技術が開発されました(図2)。これは特殊な色の光を当てて観察する内視鏡ですが、左の写真ではわかりにくい早期がんが右のNBIでは茶色の領域として見えます。NBIはのどから食道にかけての早期がんの発見に有用であり、今後早期食道がんの発見が増加することが期待されます。胃がんの発見においてバリウム造影による集団検診は大きな役割を果たしてきました。しかしながら、早期がんの発見という意味では内視鏡にはかないません。わが国はいつでもどこでも安価にレベルの高い内視鏡検査が受けられる、世界で最も恵まれた国です。この恩恵を最大癌に生かして、食道がんや胃がん命を落とさないようにしたいものです。 |
治療 |
図3
早期食道がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) 最近の診断技術・治療手技の進歩に伴い、食道がん・胃がんの治療も多様化してきました。まず、粘膜にとどまっている早期がんに対しては内視鏡による治療が可能となりました。特に内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)と呼ばれる治療法は、範囲の広いがんであっても一括で切除が可能であることから内視鏡治療の成績向上に大きく寄与しました(図3)。 |
図4
胃がんに対する完全腹腔鏡下胃切除 |
最後に 〜食道がん・胃がんで命を落とさないために |
まず予防が第一です。食道がんの予防には禁酒・禁煙が重要です。特に顔が赤くなる人は要注意です。胃がんの予防にはピロリ菌の除菌が有望と考えられています。次に大事なことは早期発見です。食道がんと胃がんに関しては内視鏡検査が有用です。40歳を過ぎたら年に1回は内視鏡検査を受けましょう。不幸にして進行がんが見つかった場合でも決してあきらめてはいけません。専門医に相談し、最良の治療を受けるようにしましょう。 |
今回執筆いただいたのは |
熊本大学医学部附属病院消化器外科
渡邊 雅之 講師 日本外科学会専門医・指導医 日本消化器外科学会専門医・指導医 日本食道会暫定食道外科専門医 |