【熊遊学(ゆうゆうがく)ツーリズム】
「ミュージッキング(musicking)」って楽しい! 心と体を元気にする「音楽療法」
先端の研究者をナビゲーターに、熊本の知の世界を観光してみませんか! 熊本大学を中心に地元大学の教授や准教授が、専門の学問分野の内容を分かりやすく紹介する紙上の「科学館」「文学館」。それが「熊遊学ツーリズム」です。第12回のテーマは「音楽療法」。まさに、時代にぴったりのテーマかもしれません。さあ「なるほど!」の旅をご一緒に…。 |
はじめの1歩 |
音楽を聴いて「心を癒やされた」という経験のある方は多いと思います。でも、音楽を「医療」の一環ととらえる人は少ないかもしれません。「音楽療法」という分野は、最近少しずつ知られるようになってきましたが、まだ一般的とはいえないようです。しかも、文学部の先生が研究する「音楽療法」ですから、福祉の分野の先生方とは視点も違ってくるでしょう。一体どのような研究なのか、好奇心いっぱいで研究室のドアを叩きました。 |
Point1 創造的音楽療法 |
音楽療法の歴史は、旧約聖書(エピソード1)にも出てくるほど古いのですが、近代的な音楽療法は20世紀初頭のアメリカで芽生えました。 |
Point2 「ミュージッキング」…音楽は動詞? |
日本では2001年に音楽療法学会が設立され、現在6000余名の会員がいます。国家資格ではありませんが、学会が認定する音楽療法士も増えてきました。医師、心理学者、福祉関係者、音楽家、教育者などすそ野も広く、アプローチ法もさまざまです。 |
Point3 「あなたは、そのままでOKよ」 |
木村准教授は、もともと音楽学の西洋音楽史が専門でしたが、15年ほど前に音楽療法と出会い、音楽の可能性にひきつけられました。 |
Point4 コミュニティー音楽療法 |
ストレスにさらされている現代人にとって音楽療法は、音楽療法士と治療対象者だけのものではなく、周りの人々にも広めていくべきだと木村准教授は考えています。「音楽から感動が生まれ、そこから地域社会が動いていく。音楽には人を突き動かす力があります。その力で人と人とをつなぎ直し、社会を変えていけないかと考えているんです」 |
なるほど! |
音楽の持つ力は侮れません。そして、「本来私たち人間が生まれながらに音楽性を持っている」という考え方には勇気付けられます。阪神淡路大震災のころにはまだ日本にはなかった音楽療法学会。今こそ、音楽療法が日本で力を発揮する時だと思いました。 |
【エピソード1】 王さまたちのうつ病を治した「音楽療法」 |
旧約聖書の『サムエル記』には、ユダヤの王さまサウルのうつ病を羊飼いの少年ダビデが竪琴を弾いて治したと書かれています。 |
【エピソード2】 『4分33秒』という音のない音楽 |
現代音楽の作曲家ジョン・ケージの作品に『4分33秒』という曲があります。楽譜は三楽章から成り、すべての楽章には「休み」と書かれているのみです。 |
【エピソード3】 アリストテレスも認めた音楽療法 |
古代ギリシア時代には、音楽は人間の思考や情緒、健康に強く影響すると考えられていました。哲学者アリストテレスは、悲劇を見たり悲しい音楽を聴いて涙を流すと心のしこりを解き放つ効果があると唱え、これを「カタルシス(浄化・排泄)」と呼んだのです。音楽には「心の傷を癒やすカタルシス効果がある」ということは、現代の音楽療法にもつながる考え方です。 |
ナビゲーターは |
熊本大学文学部総合人間学科
木村博子 准教授 音楽には、人を動かし社会を動かす力があります! |