【専門医が書く 元気!の処方箋】
人類史上初のがん予防ワクチン 子宮頸(けい)がん予防ワクチン
昨年12月から 日本でも接種が可能になった「子宮頸がん予防ワクチン」。 そこで今回は、子宮頸がんを引き起こすウイルスの子宮への侵入を防ぐ、 人類史上初のがん予防ワクチンについてお伝えします。 |
2009年12月22日 サーバリックスが日本でも接種開始 |
http://glaxosmithkline.co.jp/press/press/2009_07/P1000601.htmlより引用
日本で毎年約9000人がり患し、約2500人が死亡している「子宮頸がん」は、産婦人科の中で最も多いがんです。このがんは、子宮頸がん検診事業が功を奏し、20世紀後半には死亡率が半減しました。しかし、最近の20年間で、20歳代、30歳代の若い世代に急増し、この年代に発症するがんの第1位となっています。その一方で、子宮頸がんを予防するワクチンが3年前から全世界で広く使用されるようになり、昨年の10月、日本でもようやくそのワクチン、サーバリックスが認可され、12月22日から接種が可能となりました(写真1)。 |
ヒト乳頭腫ウイルス16型・18型を ターゲットにしたワクチン |
ヒト乳頭腫ウイルスは約120種類存在します。この中の多くは、皮膚や粘膜にできる良性のイボの原因となりますが、約10種類が子宮頸がんや、その前がん状態と深い関係があります。このウイルスは、性交経験のある女性であれば誰でも感染する可能性があり、事実80%の女性に感染歴があることが指摘されています。しかし、通常、ほとんどの女性ではウイルスは数カ月後までに体外に排除されます。また、このウイルスの感染だけでは子宮頸がんにはならず、持続して子宮にとどまり、さらに喫煙や、免疫が低下した状態などが重なることで子宮頸がんに至り、計算上では、感染女性の約0・15%が1年間に発症すると推定されています。 |
ワクチン接種の対象者と方法 |
ワクチンの接種対象は10歳以上の女性で、アメリカでは11〜12歳が推奨されています。その理由として、性交経験がなくヒト乳頭腫ウイルスに感染しておらず、ワクチン接種後の最も高い抗体価が期待される年齢であることが挙げられています。重要なことは、このワクチンでは既に感染しているウイルスの除去も病気の進行の抑制も期待できないことです。また、10歳未満の女児にはこれまで使用経験がなく、さらに妊娠女性には勧められていません。 |
国や自治体の今後の施策に期待 |
直接費:治療費と検診・再検査(患者の自己負担含む)
間接費:子宮頸がん死による死亡損失、通院・入院による労働損失 ワクチン費用:36,000円/1クール、全12歳女児(58万人)に 接種したと設定 子宮頸がん予防ワクチンもほかのワクチンと同様に保険診療の対象にはなりませんので、日本では3回セットの接種で約5万円の費用がかかります。世界に目を移すと、オーストラリアでは、12〜26歳の全女性に全額公費負担でワクチン接種が行われています。そのほか、イギリス、イタリア、そしてアメリカの一部の州では、12歳前後の女子を対象に全額公費負担、またドイツでは一部を公費で負担し、ワクチン接種による子宮頸がんの予防を啓発しています。 |
今回執筆いただいた先生 |
熊本大学医学部附属病院婦人科
片渕 秀隆教授 日本産科婦人科学会認定医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医、熊本県母体保護法指定医師 |
コラム『ノーベル生理医学賞受賞者 ツール・ハウゼン博士の偉業 』 |
(左)http://de.wikipedia.org/wiki/Harald_zur_Hausenより引用
(右)http://blogs.nature.com/news/thegreatbeyond/2009/09/new_vaccine_scare_following_uk.htmlより引用 1983年、ドイツのがんウイルス研究者であるハラルド・ツール・ハウゼン博士が、ヒト乳頭腫ウイルス(Human Papillomavirus: HPV)の感染がきっかけで子宮頸がんが発生することを発見しました(写真2)。それから25年後、彼は2008年のノーベル医学生理学賞をこの業績によって受賞しました。子宮頸がんを引き起こすウイルスの発見によって、このウイルスの子宮への侵入を防ぐ、人類史上初のがん予防ワクチンが実現したからです。 |