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「あれんじ」 2011年3月5日号

【慈愛の心 医心伝心】
【第十二回】 奇跡に触れる

女性医療従事者によるリレーエッセー 【第十二回】

【第十二回】 奇跡に触れる
熊本大学医学部附属病院 
重症心身障がい学寄付講座  
助教 佐藤 歩

 いきなり大げさなタイトルをつけてしまいましたが、自分の仕事の醍醐味(だいごみ)を一言で説明するとしたら、「奇跡に触れる」ことができる、としたいと思いました。
 私は現在小児科医として、大学病院の新生児集中治療室に勤務しています。ここには、思いがけず早産や仮死状態で生まれたり、生まれつきの重い病気を抱えたりした赤ちゃんたちが毎日のように入院してきます。
 入院したばかりの赤ちゃんの多くは、はじめはミルクを飲むことも抱っこしてもらうこともできず、お母さんたちは元気に産んであげられなかったと自分を深く責めています。それでも、子どもの生命力というのは本当に不思議で素晴らしいものです。助からないかもしれないと思っていた子も、苦しい時期を乗り越えると、どんどん元気になっていきます。
 中には障害を残す場合もあって、映画やドラマとは違い、退院したらハッピーエンドとはいきません。それでも、はじめは触れ合うことさえできなかったご家族との間に確かな愛情を育んでいる姿を見ると、これはこの子が自分でつかんだ奇跡なのだと感じずにはいられません。そうした奇跡に触れる時、喜びとともに自分の職業の責任の重さを実感します。
 考えてみれば、自分がこの年まで大きな病気やけがもなく元気で過ごすことができたのも、本当は奇跡的なことなのかもしれません。そのことに感謝をしながら、これからも子どもたちやそのご家族のお手伝いをしていけたらと思います。