【専門医が書く 元気!の処方箋】
本人も周囲も上手につきあいたい 老人性難聴
先進国の中でも最も高齢化が進んでいる国の一つである日本では、今後、高齢者特有の疾患が増加することが予想されます。多くの高齢者の方が不自由に感じる症状の一つに難聴があります。今回は、医学用語では「老人性難聴」と呼ぶ、加齢に伴う進行性の聴力低下についてお伝えします。 |
はじめに 〜聞こえのしくみ |
【図1.聞こえのしくみ】
図1を見てください。集音器の役割をしている耳介(じかい)から入った音の波は外耳道を伝わり、鼓膜(こまく)を振動させます。鼓膜の奥の空間は中耳と呼ばれており、音を伝えるための耳小骨(じしょうこつ)と呼ばれる骨が3個連鎖しています。音の振動はこの3個の耳小骨を振動させ、3つ目の耳小骨であるアブミ骨から蝸牛(かぎゅう)へと伝わります。蝸牛の中には1万個以上の感覚細胞があり、音の振動を神経信号に変換します。神経信号は聴神経により脳へと伝えられます。脳の働きにより言葉を理解したり、音楽を楽しんだりすることができるのです。 |
どんな症状? |
【図2.高齢者の平均聴力レベル】(東京大学 加我君孝先生のデータを引用)
老人性難聴は、 |
治療・対処法について |
聞こえが悪くなったと感じたら、まずお近くの耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします。年齢のせいで聞こえが悪くなったと思い込んでいる方の中には、実は中耳炎であったり、耳垢がつまって聞こえが悪くなっている方がいらっしゃいます。このような場合は適切な治療で聞こえの改善も期待できます。 |
【図3.補聴器のタイプと特徴】 |
〈挿耳型〉 |
〈耳かけ型〉 |
〈箱型〉 |
おわりに |
聴力はコミュニケーションの手段として非常に重要です。難聴の進行によりコミュニケーションが取りにくくなり、家に引きこもってしまったり、家族や友人との会話が減るのは残念なことだと思います。多くの老人性難聴の方は補聴器をうまく活用することで聴力低下を補うことが可能です。しかし補聴器を使用すれば、若い方たちと全く同じように聞こえるようになるわけではありません。周囲の方も、「音は聞こえるのだけれど、何を言っているのかはっきり聞き取れない」という老人性難聴の特徴を理解して、正面からゆっくり、はっきりと話しかけるように心がけましょう。 |
今回執筆いただいたのは… |
熊本大学医学部附属病院
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 増田 聖子(まさこ) 助教 日本耳鼻咽喉科学会専門医 |