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「あれんじ」 2011年2月19日号

【見る・知る・感じる 熊本まつり探訪】
鏡ヶ池鮒取り神事

鏡ヶ池に響く歓声 鮒と泥に沸く春祭り


開催日:4月7日(木)
開催場所:印鑰神社(八代市鏡町鏡村1)
JR有佐駅から徒歩約30分、松橋インター、八代インターから車で約30分
(問)八代市鏡支所総務振興課 ☎0965(52)8123

朝廷の使いを“鮒”でおもてなし

 八代市鏡町の鏡ヶ池に隣接し、大和朝廷の使い蘇我石川宿禰を御祭神とする印鑰神社。
 奈良時代、肥後国八代郡にあった役所に、八代地方の租米は保管されていました。これらの役所には、朝廷から渡された印と鑰(鍵)があり、この印鑑と鍵が神社の名前の由来になっているようです。
 同神社で、毎年4月7日に行われる春季例大祭は多くの人でにぎわい、中でも“泥んこ祭り”の名で知られる「鮒取り神事」は、八代市の無形民俗文化財に指定されています。
 もともとは、5世紀はじめ14代仲哀天皇のころ、石川宿禰が九州の豪族を鎮めるために同地を訪れた際、悪天候で海が荒れ、漁ができなかったため、地元の若者が氷を割って池に飛び込み鮒を捕まえて献上したのが始まりといわれています。


縁起ものの“泥”で無病息災を祈願

 大祭当日、まずは神幸行列が町を練り歩きます。奉納された神馬が氏子の家々を回り、御神輿が祭壇に供えられ、太鼓の合図が鳴ると同時に締め込み姿の若者たちが一斉に鏡ヶ池に飛び込みます。
 鯉や鮒を泥だらけになりながら探す男たちの姿を見ようと、毎年大勢の観客が池の周りを囲みます。鯉や鮒が見つかると、観客めがけて獲物と一緒に池の泥を放り投げ、祭りを盛り上げます。
 その際泥が当たると、無病息災・厄除けのご利益があると言い伝えられています。観客の中には、逃げ回りながらも実はこの“泥”にあやかりたいと足を運ぶ人も多いようです。


教えてください 「泥と鮒(鯉)の持つ力」

 阿蘇地方にも、田植えの時期に行われる祭りの中に、田の泥が当たると“縁起がいい”とされ、その年は豊作になると言い伝えられている祭りがあります。
 昔から、人が近寄らないものや泥、ツバのように汚いとされるものは、計り知れない力を持つと考えられているようです。人が汚くて“近寄らない”ということではなく、見方を変えると“近寄れない”ほど大きな力(威力)を持っているということなのでしょう。
 また、“出世鯉”や“鯉の滝登り”という言葉があるように、魚が立身出世を表すものとして引用されることがあります。もしかすると、印鑰神社の祭りの“鮒”にも、当時の男たちの出世を願う思いが込められていたのかもしれません。(談)


 熊本大学60年史編纂室長
 (前熊本大学大学院社会文化科学研究科民俗学教授)
  安田 宗生 氏