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「あれんじ」 2011年2月19日号

【四季の風】
第11回 春の海

めぐりくる季節の風に乗せて、四季の歌である俳句をお届けします。

春の海かく碧ければ殉教す 中正

 立春も過ぎると、海も明るく力強い春潮となります。春潮といえば、毎年このころの吟行は必ず天草。バスの窓から梅を賞で、三角西港あたりで軽くウォーミングアップ。風はまだ寒いのですが、春潮の色や景色を楽しむのです。

  一舟の春へ向けたる舳先かな 中正
  
  春潮へ断崖深く刺さりけり 中正

 大矢野島は、若布干しで大忙しです。若布といえばすぐ
 
  みちのくの淋代の浜若布寄す 山口青邨

の句を想ったりするのですが、若布干しは、なかなかにぎやかです。吃水線すれすれまで若布を満載した小舟が港に戻ると、次々と干し場に吊るしていくのです。
 目的地は「藍より碧き」海を渡った、本渡のキリシタン館。ここで、春潮を通して殉教史に思いをはせるのです。殉教の海はあくまで碧く、信仰の勁さ深さを、この海の色に見るのです。

  春疾風天草四郎陣中旗 中正
  
  時雨るゝや島の更紗に聖杯図 土佐千洋

 以前私は立田山の泰勝寺で、

  ガラシャ廟綿虫ほうと放ちけり 中正

 の句を得たことがありますが、人の生死のかたちもいろいろです。それにしても、踏絵とは酷なことです。深い葛藤の中で「転び」もあったことでしょう。絶体絶命の窮地にあって信者たちは何を考え、どんな選択をしたことでしょう。

  踏絵ふまざれば獄門ふめば地獄 中正
 
  踏めと主の言ひ給ひける踏絵かな 中正

  絵踏してユダとなりたる人の文 中正