立春も過ぎると、海も明るく力強い春潮となります。春潮といえば、毎年このころの吟行は必ず天草。バスの窓から梅を賞で、三角西港あたりで軽くウォーミングアップ。風はまだ寒いのですが、春潮の色や景色を楽しむのです。
一舟の春へ向けたる舳先かな 中正
春潮へ断崖深く刺さりけり 中正
大矢野島は、若布干しで大忙しです。若布といえばすぐ
みちのくの淋代の浜若布寄す 山口青邨
の句を想ったりするのですが、若布干しは、なかなかにぎやかです。吃水線すれすれまで若布を満載した小舟が港に戻ると、次々と干し場に吊るしていくのです。
目的地は「藍より碧き」海を渡った、本渡のキリシタン館。ここで、春潮を通して殉教史に思いをはせるのです。殉教の海はあくまで碧く、信仰の勁さ深さを、この海の色に見るのです。
春疾風天草四郎陣中旗 中正
時雨るゝや島の更紗に聖杯図 土佐千洋
以前私は立田山の泰勝寺で、
ガラシャ廟綿虫ほうと放ちけり 中正
の句を得たことがありますが、人の生死のかたちもいろいろです。それにしても、踏絵とは酷なことです。深い葛藤の中で「転び」もあったことでしょう。絶体絶命の窮地にあって信者たちは何を考え、どんな選択をしたことでしょう。
踏絵ふまざれば獄門ふめば地獄 中正
踏めと主の言ひ給ひける踏絵かな 中正
絵踏してユダとなりたる人の文 中正 |