【熊遊学(ゆうゆうがく)ツーリズム】
コピーしたり、編集したり?RNAルネッサンス!
先端の研究者をナビゲーターに、熊本の知の世界を観光してみませんか! 熊本大学を中心に地元大学の教授や准教授が、専門の学問分野の内容を分かりやすく紹介する紙上の「科学館」「文学館」。それが「熊遊学ツーリズム」です。第10回のテーマは「RNA(リボ核酸)」。さあ、「なるほど!」の旅をご一緒に…。 |
はじめの一歩 |
今、生命科学の分野では、RNAがホットなテーマの一つだそうです。というのは、ここ数年で次々に新しいRNAが発見されて、驚くほどさまざまな役割を担っていることがあ〜かになってきているからです。RNAといえば、DNAの遺伝情報をコピーしてタンパク質を作る…、というぐらいの知識しか持ち合わせない筆者にとって、まったく未知の分野に一歩踏み出す心境での取材です。 |
Point1 伝令RNAの役割とは? |
ヒトの体には、約60兆個の細胞があると言われています。各細胞に一つの核があり、その中にDNA鎖が染色体としてパッケージされています。DNA鎖のうち、タンパク質やRNA鎖をつくる情報を持った部分を遺伝子と呼びます。DNA鎖は、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)と呼ばれる4種類の塩基を部品に持つ長い連鎖ですが、ATGCの並び方が遺伝情報となっています。遺伝情報に基づいて体の機能を担うのはタンパク質です。タンパク質は20種類のアミノ酸の長い連鎖で、アミノ酸の並び方で性質が決まります。 |
【メモ1】RNAワールド仮説 |
以前は、遺伝情報の設計図を持つDNAが生命の起源と考えられていましたが、DNA鎖をつくるのに酵素タンパク質が必要だという矛盾が解決できませんでした。生命現象をつかさどる機能性RNAが続々と発見され、ついに酵素機能を持つRNAまで分かってきました。それで「生命の起源は遺伝情報機能と酵素機能の両方を持てるRNAで、後にそれぞれの機能に特化したDNAとタンパク質が加わった」という仮説が出てきました。「RNAワールド仮説」と呼ばれています。 |
Point2 伝令RNAの驚くべき仕組み(選択的スプライシング) |
図1
約2万2000個前後のヒトの遺伝子からは、10万〜20万種類ものタンパク質がつくられています。遺伝子数の約10倍ものタンパク質が、いったいどのようにして作られるのか?その謎が最初に解明されたのは1980年代のことでした。 |
【メモ2】RNAの研究がもたらす、難病治療やエイズの新薬開発の可能性 |
谷教授の研究グループが特定した、伝令RNAの核外輸送にかかわる11個の原因遺伝子。その1つを調べると、遺伝子の情報を写し取ったり、遺伝子の傷を修復したりするタンパク質の遺伝子に変異が起きていることが分かりました。 |
Point3 機能性RNAとは? |
Point2は遺伝子1個の話でしたが、染色体DNA鎖の遺伝子以外の部分にも、大変意外な秘密が隠されていました。 |
Point4 谷研究室の発見 |
図2
細胞核の中でスプライシングされた伝令RNAは、核膜に約5000個ほどある「核膜孔」という出入口を通って細胞質に出ます。スプライシングされていない伝令RNAは、核の外には輸送されません。 |
【なるほど!】 |
数百種類のRNAが、私たちの生命活動を調整していたとは驚きです。そして、これまで無駄だと思われていたDNAの中に、大切な働きをする部分が発見されたという事実にも考えさせられました。谷研究室のさらなる新発見に期待しています。 |
ナビゲーターは |
熊本大学大学院自然科学研究科
(理学専攻)生命学講座 谷 時雄 教授 |