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「すぱいす」 2026年6月号

【元気の処方箋】
出産後、誰にも起こり得る「産後うつ」

赤ちゃんの誕生は、両親をはじめ家族や友人など周囲のみんなを笑顔にします。その日から「お母さん」として、これまで以上に忙しい毎日になる女性に最も大切なのは、心身の健康です。今回は、出産後の女性なら誰にも起こり得る「産後うつ」についてお伝えします。

(取材・文=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

執筆者
精神保健指定医
日本精神神経学会専門医・指導医
日本精神科救急学会認定医・指導医
精神保健判定医

熊本大学病院 神経精神科
教授 牧之段 学さん


【はじめに】 出産後に発症する抑うつ状態

出産は新しい命を迎える喜びに満ちた出来事です。一方で、女性の心と体には急激で大きな変化が生じます。中でも、出産後に発症する抑うつ状態を指す「産後うつ」は、気分の落ち込みや不安、意欲低下などが持続し、育児や日常生活に支障を来します。産後の女性の約10〜15%に見られるとされ、決してまれなものではありません。

「母親なのだから頑張らなければならない」「自分の努力が足りないのでは」といった本人の思い込みから、周囲に相談できず一人で抱え込んでしまうことも少なくありません。また、産後の女性の心身について周囲の知識や理解が不十分だと本人にプレッシャーを与えてしまいます。

本人や家族、周囲が正しい知識を持つことが、予防や早い回復につながります


【発症の要因】 女性ホルモンの急激な変動 育児負担、心理社会的ストレスも
➀ホルモン変化
➁出産後の女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)の急激な低下
➂育児負担
➃慣れない育児や授乳、家事の負担が心身の疲労につながる
➄周囲の支援不足
➅パートナーや家族の理解不足。孤立。相談できる人がいない環境
F不安・ストレス
G育児への不安、責任感。将来への心配など
H睡眠不足
I夜間授乳や赤ちゃんの生活リズムにより睡眠が十分にとれない

上記の要因が重なることで、産後うつの発症リスクが高まります

産後うつの発症は、単一ではなく、複数の要因が関与しています。

出産に伴うエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの急激な変動は、脳機能に影響を与える重要な生物学的要因です。加えて、夜間授乳による睡眠不足、育児への不安や責任感、パートナーや家族との関係、社会的孤立などの心理社会的ストレスが重なります。

また、過去にうつ病や不安障害の既往があったり、周囲からの支援が十分でなかったりすると発症リスクが高まることが知られています(図1)。


【回復に向けて】 医療・子育て支援機関などに相談 周囲の共感的な関わりも大切
1
➀気分の落ち込み
・悲しい、憂うつな気分が続く
・楽しく感じられない
・理由なく涙が出る
➁不眠/過眠
・眠れない
・夜中に何度も目が覚める、または寝過ぎてしまう
➂不安・焦り
・理由のない不安や焦りが強くなる
➃意欲の低下
・何をするにもやる気が出ない
・集中できない
➄育児への自信低下
・育児に自信が持てない
・赤ちゃんに関心が持てないことがある
➅罪悪感・自己否定感
・「母親として失格ではないか」という強い罪悪感がある
F食欲の変化
・食欲がない、または食べ過ぎてしまう

これらの症状が2週間以上続く場合は、産後うつの可能性があります

産後うつは母親の健康だけでなく、子どもの発達や家族全体の生活にも大きな影響を及ぼします。しかし、早期に気付き、適切に対応することで改善が期待できます。精神科や心療内科に加え、産婦人科、地域の保健師、子育て支援機関など、多様な窓口で相談が可能です。


【症状・課題】 不安感や自信喪失 適切な理解と対応を
STEP➀気付き
いつもと違う心や体の変化に気付きましょう
2週間以上症状が続いたら相談することを考えて

治療はそれぞれの状況に応じて行われ、休養の確保や環境調整、心理的支援が基本となります。必要に応じて薬物療法が検討されますが、授乳との両立を考慮しながら慎重に選択されます(図3)。

回復には周囲の理解と支援が不可欠です。「頑張って」という励ましよりも、「大変だったね」「少し休もう」といった共感的な関わりが重要です。また、育児や家事の負担を家族などが具体的に分担することで、症状の改善につながります。


STEP➁相談
精神科・心療内科、産婦人科や子育て支援センターなどに連絡を


STEP➂支援・治療
T休養・環境調整
U心理的支援(カウンセリングなど)
V薬物療法(必要に応じて)

状況に応じた支援を受けることが大切です


早期の相談と支援・治療が、回復への第一歩です

STEP➃回復へ
症状が軽減し、自分らしく育児や生活ができるようになります


【おわりに】 一人で抱え込まず、早めに相談

産後うつは出産後、誰にでも起こり得る状態であり、決して特別なものではありません。気になる変化があれば、一人で抱え込まず、早めに周囲や専門機関に相談することが大切です。 母親自身の心の健康を守ることが、子どもの健やかな成長にもつながります。


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