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「あれんじ」 2011年2月5日号

【専門医が書く 元気!の処方箋】
知ってほしい COPD(慢性閉塞肺疾患)と呼吸リハビリテーション

 COPD(慢性閉塞肺疾患)という病気をご存知ですか?聞き慣れないため自分には関係ないと思いがちですが、簡単にいえば“たばこによる肺の生活習慣病”。以前は慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれていた疾患が多くの患者さんに両方が合併していることなどから、COPDと呼ぶことになったそうです。
 今回は、喫煙が主な原因となる身近な病気「COPD]と、その治療法の一つである「呼吸リハビリテーション」についてお伝えします。

長期間の喫煙が主な原因となる「COPD]
図1

 「階段や坂道を上ると息が切れるようになった」。−ある程度の年齢になれば、そういう感覚を持ったことがある人は多いでしょう。そんな時誰しも思うのは「年かな?」。「そこで、プラス『体の中で何か起きているかな?』と思って欲しい」と、藤井一彦先生は言います。というのもCOPDの症状は、まさしくこの息切れだからです。
 私たちは呼吸によって酸素を取り込み、二酸化炭素を吐きだしています。そのガス交換を担う臓器が肺です。肺は、袋状をしていて、気管支と肺胞から成り立っています。たばこなどの煙に含まれる有害な粒子を慢性的に吸い込むことで、空気の通り道である気管支に炎症が起き、酸素や二酸化炭素の交換を行う肺胞は徐々に破壊されてしまいます。肺胞の壁が破壊されてしまうと、酸素を取り込みにくくなり、また、息を吐き出しにくくなります(図1)。
 COPDは、20年以上といった長期間の喫煙によって発症するため40歳以上の患者が多く、症状もゆるやかに起こります。そのため、息切れという“症状”があらわれても「年かな?」で終わってしまいがちです。しかし、高齢喫煙者の50%近くがCOPDと言われています。また、喫煙習慣が男性に多かったためにこれまでは男性に多くみられた疾患でしたが、女性喫煙者の増加に伴い女性患者が増加。女性のほうが少ない喫煙本数でなりやすいことも分かってきました。
 「長い喫煙経験がある」「階段を上ると息切れする」「せき・たんが多い」といった人は、是非一度受診しましょう。COPDは、息を最大限に吸った状態からできるだけ早く最後まではき出す肺機能検査によって診断します。COPDでは息を吐き出しにくくなっているため、吐き出した空気の総量に対する最初の1秒間に吐き出せた空気の寮の割合(1秒率)が小さくなります。


治療に「呼吸リハビリテーション」を

 「COPDの発症を防ぎ、進行を止める最も効果的な方法は禁煙です」と藤井先生。これに薬物療法、呼吸リハビリテーションを加えることで症状を軽減し、日常生活の維持・改善ができます。
 機能回復訓練を指すリハビリテーションは、今やすっかりおなじみですが、「呼吸リハビリテーション」とはどんなことをするのでしょうか。藤井先生によると、
   
  コンディショニング
     ↓
  ADL(日常生活動作)トレーニング
     ↓
  全身持久力・筋力トレーニング

と進むそうです。ここでは、その中から、自宅で簡単にできるものをいくつか紹介します。


【コンディショニング】

 コンディショニングとは、崩れた体の状態を整えること。つぶれやすく空気の通りが悪くなった気管支をつぶれにくくする呼吸法〜口すぼめ呼吸〜がその一つです。
 また、COPDになった肺は縮まない風船のようにふくらんでいるため、胸とおなかを区切る筋肉の膜で呼吸運動に最も大事な横隔膜は押し下げられ、うまく働けなくなります。そのためCOPDになった人の呼吸は、首や胸、背中、おなかの筋肉(=呼吸補助筋)も使って行われています。もちろんそれらは無意識で行っていることなので、それと本人が気づくことはないのですが、体は一生懸命頑張っているのです。それによって起きる筋肉のこりをほぐしリラックスさせるストレッチも、コンディショニングになります。


【全身持久力・筋力トレーニング】

 コンディショニングを行いながら全身持久力をつけていけば、より呼吸が楽になります。一番効果があるのは、足腰の筋肉を鍛えることです。そのために誰でも簡単にできるのが歩行トレーニング(ウォーキング)です。とくに口すぼめ呼吸で、ふ〜っと息を吐きながら歩くと効果的です。
 これに簡単な筋力トレーニングを加え、継続するとことが大事です。


おわりに   快適な生活をするための力をつけよう

 少しの運動で息切れするようになると、運動することが億劫になります。動かなければ息切れすることもなく、自分に不都合な体の変化を自覚せずに済みます。しかしそうしていると筋力が一段と弱り、さらに呼吸するのが苦しくなってしまいます。それでまた動かなくなる…。COPDが進んで、こうして「負のスパイラル」に陥ると、入浴中に背中や頭髪を洗おうとしても苦しくて思うように洗えない、布団の上げ下ろしが苦しくなる、着替える際に腕を片方通しては一休みしないと次の動きに移れない…と、日常生活がつらくなってきます。
 こういった事態を招かないためにも、まずは禁煙です。そして医師の指導の下に、適切な治療を受けることで、肺機能の生涯を食い止め、よりよい暮らしをするための力をつけたいものです。


今回教えてくださったのは
熊本大学大学院生命科学研究部
呼吸器病態学分野

  藤井 一彦 講師

 日本内科学会認定医
 日本呼吸器学会専門医
 日本アレルギー学会専門医