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「すぱいす」 2026年4月号

【元気の処方箋】
免疫反応の”見張り番” 制御性T細胞<Treg(ティーレグ)さん>

「細胞」は、生物の体を構成する最小単位です。「私たちの体で頑張っている細胞のことをもっと知ってもらおう」と、多様な細胞から一つを取り上げ解説するシリーズをお届けします(不定期掲載)。今回は免疫の働きを制御する「制御性T細胞」について、当企画を監修している肥後医育振興会の松下修三理事長に寄稿してもらいました。

(取材・文=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

執筆者
肥後医育振興会 理事長
松下 修三さん

熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター
特任教授

日本エイズ学会理事
前 国際エイズ学会運営評議員
日本内科学会認定内科医
日本エイズ学会認定医・指導医


はじめに
私がTregです

2025年のノーベル生理学・医学賞が、日本人の免疫学者で大阪大学免疫学フロンティア研究センターの坂口志文特任教授(特別栄誉教授)に授与されたことは、皆さんご存じだと思います。坂口博士が発見したのが、「制御性T細胞」という免疫細胞です。

制御性T細胞は、英語ではregulatory T-cellと表記され、Treg(ティーレグ)と略されます。皆さんの体の中で働いている細胞です。

ノーベル賞受賞に関するニュースや特番だけでなく、原作の漫画からテレビアニメ化され、映画化もされた『はたらく細胞』にも制御性T細胞は登場します。

制御性T細胞のことを「Tregさん」と呼びながら、その働きなどを分かりやすく解説します。


「Tregさん」のお仕事は?−免疫反応を適正にコントロール

Tregさんが果たす役割を簡単に言うと、免疫反応の“見張り番”です。

私たちの体には、外敵から身を守る「免疫の仕組み」があります。私たちは、この仕組みによって外部から侵入するウイルスなどの病原体や異物を排除し、健康を保っています。

しかし、正常な自己組織に免疫系が反応すると関節リウマチのような「自己免疫疾患」を起こします。また、もともと無害な花粉や食べ物に対しても過剰に反応することがあり、これらは「アレルギー反応」と呼ばれます。

Tregさんは、こうした異常な反応や過剰な反応を見張っており、「異常〜過剰反応」を感知すると、抑制する機能を持っています。

このように、免疫反応を適正にコントロール(制御)するため「制御性T細胞」という名が付きました。


難病の原因解明にも一役

今回のノーベル賞にはもう一つの重要な遺伝子の発見が関わっています。それは「FOXP3」という遺伝子です。

生まれた直後から重度の下痢、糖尿病、湿疹などを起こす、まれな遺伝性疾患として、IPEX症候群(免疫調節異常・多内分泌腺症・腸症・X連鎖症候群)が知られています。

根治には正常な遺伝子を持つ骨髄細胞を移植するしかありません。対症療法だけでは、生存期間は平均2年と報告されています。このIPEX症候群が、X染色体上にあるFOXP3の変異が原因ということを突き止めたのが、坂口博士と同時にノーベル賞を受賞した米国の研究者ブランコウ博士とラムズデル博士です。

坂口博士らは、この発見を受けて、FOXP3遺伝子の変異によりTregさんに機能異常が生じて IPEX症候群が起こることを証明しました。Tregさんによる免疫の制御が正しく働くことで、私たちは生きていけるのです。


「Tregさん」と健康−幅広い治療法への応用に期待

Tregさんは、私たちの免疫機能の基本である、自己の組織は攻撃対象としない「自己寛容」の働きと、病原体や異物に対する免疫反応を適正なレベルに抑える調節機能を果たしています(図)。Tregさんの機能が弱いと、アレルギーや自己免疫疾患(自己免疫性甲状腺炎、関節リウマチ、炎症性腸炎、全身性エリテマトーデスなど)の病気を発症する可能性が高くなります。

一方、がん(腫瘍)に対しても免疫系は反応します。その際に、がん細胞がもともとは正常細胞に由来することから、この抗腫瘍免疫反応をTregさんが「やりすぎ」と勘違いして抑制する可能性もあります。この場合には、Tregさんの機能を抑えてやることでがんを治せるという期待も出てきます。これらのTregさんの生体内での働きは現在も研究が続けられており、今後、幅広い疾患の治療法への応用が期待されています。


[図]制御性T細胞(「Tregさん」)の主な働き
(坂口 志文,藤尾 圭志、2026.01.13 医学界新聞:第3581号より新年号特集
免疫の謎を解き明かす、ノーベル生理学・医学賞 受賞記念インタビュー、制御性T細胞が問いかける,自己と非自己の境界線 から作成)

Tregは免疫細胞が自身の細胞や組織を攻撃することを防いで自己寛容を維持しており、その破綻は自己免疫疾患を引き起こす。また、Tregは生体防御としての免疫機能の抑制にも関わり、過剰な抑制はがんや病原体の増殖を、抑制の不足は過度の免疫反応による炎症を引き起こす。


この紙面を監修する「肥後医育振興会」とは…
肥後医育振興会
早野 恵子 理事

医学教育や研究を助成し、地域医療の向上と健康増進を図る公益法人です。

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