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「すぱいす」 2025年7月号

【元気の処方箋】
手足口病、ヘルパンギーナ、咽頭(いんとう)結膜熱 「子どもの三大夏風邪」に注意

「手足口病」「ヘルパンギーナ」「咽頭結膜熱」は、夏に子どもを中心に流行する感染症です。夏休みで外出することが多いこの時季、これらの「三大夏風邪」に注意したいものです。病気の特徴や対処法について、熊本大学病院小児科特任教授の松本志郎さんに聞きました。

(取材・文=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

話を聞いたのは
熊本大学病院新生児学寄附講座特任教授(小児科兼任)
松本 志郎さん

日本小児科学会専門医・指導医


【はじめに】感染症は夏にも流行

「感染症」と聞くと冬にはやるイメージがありますが、一部のウイルスは高温多湿の夏季に感染が拡大しやすくなります。

「手足口病」「ヘルパンギーナ」「咽頭結膜熱(プール熱)」は、夏に子どもを中心に流行する感染症で「子どもの三大夏風邪」といわれます。

いずれも5歳以下の子どもがかかりやすく、ただでさえ暑くて体力が奪われがちな夏に高熱や下痢などの症状が出ることから、保護者にとっては「たかが風邪」とは思えない心配な病気です。

三つの感染症の症状や注意すべき点を知り、予防や対応策に生かしましょう。


【1.手足口病】

●手のひら、足の裏、口の中に発疹
「手足口病」のウイルスに感染すると主に手と足、口の中に発疹が現れます。「丘疹(きゅうしん)」と呼ばれる、盛り上がった小さな湿疹や水ぶくれがたくさん見られます。手の甲より手のひらに、足の甲より足の裏に多く出現します。そのため、歩く際に痛がって気付くことがあります。体幹部にはあまりできません。

一般に症状は軽いのですが、小さな子より年長児の方に痛みが強く出る傾向があります。高い熱が出ることはあまりなく、特に治療をしなくても数日の間に治ることがほとんどです。


●脳炎や髄膜炎を合併することも
口の中の水ぶくれが破れて口内炎がひどくなると飲食が難しくなり、脱水状態に陥ることがあります。

また、その年にはやるウイルスの型によっては脳炎や髄膜炎を合併することがあります。吐く、けいれんを起こす、頭痛を訴えるような場合は早めの受診が必要です。

原因となるウイルスにはいくつかの種類があるため、一度かかってもまた発症することがあります。

子どもから大人にうつることもあります。大人は子どもより症状が重くなりがちです。


【2.ヘルパンギーナ】

●突然の高熱と喉の奥に強い痛み
「ヘルパンギーナ」は原因ウイルスに感染後2〜4日ほどの潜伏期間を経て、39度を超えるような高熱と喉の痛みが現れます。

喉の奥に小さな水ぶくれや潰瘍ができるため、痛みや飲み込みにくさで水分や食事があまり取れなくなります。嘔吐(おうと)や下痢を伴うこともあります。

喉の痛みは1週間ほど続くこともあり、飲食が難しい場合は経口補水液やおかゆなどを与えて、脱水にならないよう気を付けましょう。

特別な治療薬はありませんが、熱や喉の痛みに対しては鎮痛解熱剤を使います。


●ウイルスを長期間排せつ
ウイルスは感染した子どもの口や鼻から1〜2週間、便中には1カ月程度排せつされます。ほかのきょうだいなどにうつさないために、飲食前、おむつ交換やトイレの後など、家族みんながせっけんを使ってしっかり手洗いをすることが大事です。

また、ヘルパンギーナを起こすウイルスにはいくつかの型があるため、違う型のウイルスに感染したときには、もう一度発症することがあるかもしれません。


【3.咽頭結膜熱(プール熱)】

●熱や喉痛、目の充血、目やになど
「咽頭結膜熱」はプールでの接触などで感染が広がるケースが多いことから「プール熱」と呼ばれます。喉の痛みとともに38度台の熱が3日間ほど続き、目が充血し目やにが出る結膜炎の症状が見られます。加えて、下痢や嘔吐といった胃腸炎の症状を伴うこともあります。ウイルスが喉や目、消化器の粘膜に感染することで、これらの症状が現れます。

他の夏風邪同様、安静にしていれば1週間ほどで自然に治っていきます。


●乳幼児は脱水に注意
咽頭結膜熱も何年かに一度、重症化するタイプがはやることがあります。そうでなければ重症化することは少ない病気ですが、乳幼児の場合、喉の痛みの強さから十分に哺乳ができず脱水状態になることがあります。そのような場合は点滴治療が必要になります。

また、「発熱」「両目の充血」「口唇や舌が赤い」「頸部リンパ節腫脹」など川崎病の症状と重なる点もあり、区別が付きにくい病気の一つでもあります。


三大夏風邪の治療と対策

予防は手洗い、うがいが基本

○鎮痛解熱剤を上手に使って
・三大夏風邪はほとんどの場合、安静にして水分を摂取できていれば自然に治っていく経過をたどります。しかし「喉の痛みで水分が取れない」「高熱でしっかり眠ることができない」といった状態では体力が落ちてしまいます。そういった時は、鎮痛解熱剤(座薬)を上手に使いましょう。

・解熱剤については、発熱がウイルスの増殖を抑制することからむやみに使わない方がいいという考え方がありますが、最近は適切に使うことが推奨されています。

・座薬を入れて1時間ほどすれば、喉の痛みが治まって飲食ができたり、熱が落ち着きしっかり眠れたりします。十分な水分摂取と休養が体全体の回復につながります。


○子どもの体力・体質に配慮を
・感染症の予防の基本は、夏でも冬でも変わりません。手洗い、うがいを徹底し、タオルの共用などに気を付けましょう。

・普段から注意してほしいのは「子どもの体力を考えて大人が行動する」ことです。夏場は大人でも「夏バテ」するくらい体力を消耗しています。「これくらい大丈夫」と思って遊ばせ過ぎてしまうと、想像以上に疲れることもあります。体力が落ちた状態では感染しやすくなってしまいます。大人も同様です。

・夏は楽しいイベントが多いですが、子どもの体力や体質を考えて行動することが大事です。


○流行情報をチェック
・最近は、RSウイルス感染症やインフルエンザなど冬場に流行する感染症が夏に見受けられたり、「夏風邪」が冬に小さな流行を見せたりと、季節性が弱まって一年中何かしらの感染症が流行する傾向が見られます。

・「今、どんな感染症がはやっているのか」を知っておくと対策に役立ちます。新聞の「感染症情報」をチェックする、保育園や幼稚園からのお知らせを確認するなど、積極的に情報収集することをお勧めします。