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「あれんじ」 2010年12月25日号

【慈愛の心 医心伝心】
【第10回】 赤ちゃんに教わる

女性医療従事者によるリレーエッセー 【第10回】

【第10回】 赤ちゃんに教わる
熊本大学医学部附属病院
新生児学寄附講座 
助教 横山晃子

 先日、高校生の吹奏楽部に密着したテレビ番組を見ていると、1人の高校生が体重700g台で出生し将来は色々な後遺症が残ると言われた超低出生体重児だったと言っていました。当初両親は「ただ家にいるだけでいい」と思っていたものの徐々にできる範囲が広がり、番組では吹奏楽部の一員として素晴らしい演奏を披露していました。テレビで見る限り体格も他の生徒と差がないように見えました。
 私が勤務する新生児集中治療室では、出生体重が1000gに満たず重症の合併症がある赤ちゃんを診ることがありますが、彼のように成長した姿を見るのは、うれしい驚きでした。
 未熟で難しい病気を持って生まれた赤ちゃん患者たちは、小さい体でいろいろな難しい治療に耐え、時には大きい手術を受けることもあります。そういった患者さんとは毎日毎日、朝から夜中まで付きっきりのことも少なくありません。そういう中で、保育器の中で何事もなかったかのように眠っている赤ちゃんの顔を見ていると、生まれて数カ月しか経っていないのに私が経験したことのないような困難を乗り越えてきている、本当に尊敬すべき先輩のような気持ちになります。そして同時に、新しい治療の糸口や次に生まれてくる赤ちゃんのために多くの事を教えてくれる恩師でもあります。
 先の吹奏楽部の高校生ですが、演奏後に両親のもとに走り、演奏中につけていたリボンに「ありがとう」と書いて母親に着けてあげていました。私の患者さんたちやそのご家族にも、こういう出来事があるといいなぁと思います。
 今後も患者さんからたくさんの事を教えてもらいながら、より良い医療を目指して頑張りたいと思います。