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「すぱいす」 2024年9月27日号

【元気の処方箋】
女性の医療シリーズB 月経にまつわるトラブル

月経に関するつらさや悩みを持つ女性は多くても、学校や職場などでは口にしづらいかもしれません。しかし、少しずつ「我慢するのが当たり前ではない」という考えが広がっています。今回は「女性の医療シリーズ」として、月経にまつわるさまざまな疾患についてお伝えします。 (編集=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

執筆者
熊本大学病院 産科・婦人科
外来医長
助教 佐々木 瑠美 さん

はじめに 

昔より月経の回数が増えている現代女性

女性の皆さんは一生のうちに何回月経を経験すると思いますか?
 昔は5〜6回妊娠・出産を経験し、子どもが2〜3歳になるまで授乳することが多く、その間は月経がなかったと考えられます。それに対し現代は、出産しない場合や、出産しても1〜2人のことが多く、授乳期間も短くなっています。その分月経の回数は昔に比べ大幅に増えています。
 現代の女性は一生のうち約450回もの月経を経験するといわれており、月経回数が増えればそれだけ月経に関連するトラブルや疾患も増えることになります。
月経に関連する疾患の代表例には、月経に伴って起こる下腹部痛、腰 痛、頭 痛などの「月経 困 難症」があります。そのほかにも月経の量が多い「過多月経」、月経の周期が短かったり長かったりする「月経周期の異常」、月経の前に体調がすぐれない「月経前症候群」などがあります。


月経周期の異常

「頻発」や「希発」、「続発性無月経」無排卵の場合は不妊の原因にも

 正常な月経の周期(月経から次の月経までの日数)は25〜38日ですが、体調の変化やストレスなどにより変化することもあります。また、月経が始まったばかりの思春期は月経周期が不規則になりがちです。
 月経の周期が正常より短い(24日以内)場合を「頻発月経」といいます。無排卵が原因の場合や排卵があっても黄体期が短い場合があり、不妊の原因になることもあります。
月経の周期が長い(39〜89日)場合を「希発月経」、月経が90日以上ない場合を「続発性無月経」といい、ダイエットやストレスの影響、排卵までに時間がかかる場合や多嚢胞性卵巣症候群など、さまざまな原因によりホルモンバランスが崩れている可能性が考えられます。
 無排卵が続くことは将来的な子宮体がんのリスクもありますので、産婦人科医へご相談ください。


過多月経

子宮筋腫などの病気が隠れている可能性
月経の出血量が150mL以上の場合を過多月経といいますが、なかなか月経の量を客観的に量ることは難しいものです。例えば通常のナプキンでは対応できない、昼間でも夜用のナプキンを1〜2時間おきに替えないと間に合わない、大きな塊がある、貧血がある―というような場合は過多月経が疑われます。
原因として子宮筋腫や子宮腺筋症などの病気や、まれですが血液疾患が隠れている場合もありますので、一度産婦人科を受診することをお勧めします。


月経困難症・月経前症候群(PMS)

下腹部痛や腰痛…中高生も自覚
 月経に伴う下腹部痛や腰痛などの月経困難症を認めると答えた女性は74%にも上り、月経に伴う社会の経済的負担は年間約7000億円、そのうち労働損失は約5000億円(※1)という報告もあります。
 また、月経3〜10日前の不調で知られる月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)の経済損失は約1兆円という別の試算もあります。
 月経困難症やPMSは成人女性だけの話ではなく、中高生女子の約70%は月経困難症を自覚しています。そのために学校を欠席せざるを得なくなったり集中力が低下したりと、学業・スポーツへの影響が心配されています。
 さらには月経困難症だけでなく、心や体の不調が起こるPMSを認める中高生は約30%で、月経関連症状
がないと答えた学生の割合はわずか約20%と報告されています(※2)

症状軽減にホルモン剤、漢方薬など月経困難症には、原因となる病気がないのに症状が現れる「機能性月経困難症」と子宮内膜症や子宮筋腫などの病気が原因で起こる「器質性月経困難症」の2つのタイプがあります。
 産婦人科では問診や内診検査、必要に応じて超音波検査やMRI検査などを行い、「何が原因なのか」「どんな治療法があるのか」を一緒に考え相談していきます。
 治療法は原因によりさまざまです。低用量ピルをはじめとするホルモン剤をうまく使うことによって、毎月起こる月経の間隔を空けることや出血量のコントロールが可能です。いろいろな方法で、月経による痛みやつらさの影響を軽くするお手伝いができます。
 PMSには生活習慣へのアドバイスやホルモン剤、漢方薬などの薬物治療がありますが、心の不調が強い場合には抗うつ薬なども使用されることがあります(図)。

【出典】
※1 J Med Econ. 2013;16:1255 ‒66
※2 平成28年度スポーツ庁委託事業「子供の体力向上課題対策プロジェクト」


おわりに

適切な治療法を一緒に考えましょう
月経を毎月約5日間とすると、1年の中で約2カ月もの時間、女性はつらい症状があり、仕事や学業、スポーツとの両立など生活全般で悩んでいるケースは多いのではないかと思います。
 ホルモンの治療にはなじみがなかったり、なんとなく抵抗感があったりするかもしれませんが、少しでも痛みやつらい症状を軽くして、輝く毎日を過ごしていただきたいと願っています。そのために産婦人科医は、その人に合った治療法を一緒に考えます。