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「すぱいす」 2024年5月24日号

【【元気!の処方箋】】
治療のタイムリミットに注意を 幼児の「弱視」

子どもの視力の問題は、幼児期から小・中学生や高校生など年齢に応じてそれぞれに課題があります。今回は、視力の基礎を形成する幼児期に気を付けたい「弱視」についてお伝えします。

(取材・文=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

【はじめに】6歳で視力1.0に
日本眼科医会:3歳児健診における視覚検査マニュ アルー屈折検査の導入に向けて、図5から作図

6月10日は「こどもの目の日」です。「はぐくもう! 6歳で視力1.0」という願いが込められています。


生まれたての赤ちゃんを抱いて「あら、目が合った」などと思いがちですが、生後すぐは明かりがぼんやり分かる程度しか見えていません。その後さまざまな景色を見ることで、視力は徐々に発達していきます。

生後1カ月を過ぎると目の前にある物の形が分かるようになり、4カ月ごろまでには動く物を目で追うようになります。ハイハイする頃、歩き出す頃には、自分が行きたい先の方が見えるようになり、3歳を過ぎる頃には大人と同じ視力に達するとされています(図1)。


【弱視とは】視力が十分に発達しない状態
日本眼科医会:3歳児健診啓発ポスターから作図

私たちが目で見た景色は網膜で感知され脳まで伝わって認識されます。6歳で視力は1・0〜1・2まで発達しますが、この視力の成長期に何らかの原因で両目を使ってくっきり物を見ることができない状態が続くと、目や脳の視覚神経系に生まれながらの異常がなくても視力の発達が止まってしまい、視力が1・0まで発達しないことがあります。これを「弱視」といい、眼鏡やコンタクトレンズを使用してもよく見えません。

弱視の治療には視力の発達期間というタイムリミットがあり、視力の成長期のうちに治療を行わないと生涯視力が悪いままになってしまいます。早期発見・早期治療がとても大切です(図2)。


【早期発見に向けて】大切な3歳児健診での視力検査

子どもの視力不良の早期発見には、日常的に子どもの様子に注意しておくことが求められます。普段の生活の中で図3のような様子がないか気を付けて見てください。中には重篤な目の病気が潜んでいる場合もあります。


子どもの視力検査の様子

子どもはくっきり見えていなかったり、片目が見えていなかったりしても「見える」と答えがちです。周囲の大人が気を付けていても、子どもの視力不良は見逃されやすく、弱視の早期発見・早期治療のためには、視力がぐっと発達する時期である3歳児健診での視力検査がとても大切です。


3歳児健診で異常を指摘されたら、必ず早めに眼科で精密検査を受けてください。大人と同じ「ランドルト環」(輪の一部が欠けた視力検査記号)を用いた検査ができない場合、さまざまな子ども用の道具を使って視力を評価します。

赤ちゃん向けの自宅でできるチェック方法として「嫌悪反射」があります。大人の手のひらでそっと片目ずつ目隠しします。片目に何か異常があり見えにくい場合、見えやすい方の目を隠されたときに赤ちゃんの機嫌が悪くなります(図4)。


【治療】眼鏡や手術など時機を逃さぬように

弱視と診断されたら、その原因に応じて早めの治療が必要です。

生まれつきの強い遠視や乱視、左右差のある近視が原因となっているときは、ぼやけた世界しか見えていませんので、小さな子どもであっても眼鏡をかけてピントのあった景色を見せることで治療します。

斜視に伴う弱視は、まずプリズム眼鏡をかけて両目を使って物を見ることで治療し立体感を育てます。斜視の程度によっては手術も行います。

片目だけ弱視になっているときは、視力が良い方を目隠しして過ごしてもらう「健眼遮蔽(けんがんしゃへい)」を行うことがあります。

白内障や眼瞼下垂に伴う弱視ではまず原疾患に対する手術をしてから眼鏡矯正や健眼遮蔽などの弱視治療を行うケースがあります。

弱視と言われたら大切な治療の時機を逃さないように、定期的に眼科に通院して視力の成長を促しましょう。


【おわりに】定期的な視力チェックを

子どもの視力はとても繊細です。結膜炎やものもらいで不必要な眼帯を付けただけで弱視を引き起こす恐れがあるので注意しなければなりません。

本やタブレットに目を近づけて見る癖があると近視が進行しやすく、また、環境の変化などのストレスによって心因性視力障害が生じてしまうこともあります。

健診での定期的な視力のチェックをはじめ、家庭での様子に気になることがあれば早めに眼科で検査をして、「6歳で視力1.0」を目指して視力を育て、守っていきましょう。


話を聞いたのは

熊本大学病院眼科 助教
福島 亜矢子さん
医学博士(専門領域:斜視弱視、未熟児網膜症、網膜疾患)

・日本眼科学会眼科専門医