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「すぱいす」 2023年7月28日号

【元気の処方箋】
「がんを知ろう」シリーズB その人らしく暮らせるようサポートする がん相談支援センター

 がんの治療の過程には、治療に関する課題だけでなく、生活上の心配や不安があります。そこで今回は、それらの相談に応える「がん相談支援センター」について、熊本大学病院の同センターに話を聞きました。(取材・文=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

【がん相談支援センターとは?】

◆ 県内21カ所にある「がんの相談窓口」
 「がん相談支援センター」は、誰でも無料で利用できる「がんの相談窓口」です。熊本県では、国や県が指定した「がん診療連携拠点病院」に21カ所設置されています(熊本県内の各がん診療連携拠点病院内 がん相談支援センター
)。
 国立がん研究センターの最新がん統計によると、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男女ともに2人に1となっています。自分ががんの診断を受けることを想像しない人が多いかもしれませんが、決してまれな病気ではなくなっていることを、この数字が表しています。
 現在では、多くの臓器のがんで治療法が進化し、さまざまな治療が行われています。がんと診断されると、主治医と相談して自分に合った治療法を選択し、治療が始まります。治療効果が上がることを目指して治療に臨む中にも、経済的負担や仕事の継続の可否など、生活にまつわる不安や心配は本人にも家族にもあるでしょう。
 「がん相談支援センター」はそういった不安に応えるべく、多様な分野の情報を提供し、相談に乗り、アドバイスなどを行っています。また、患者や家族の集いの場の支援なども行っています。


◆治療費や外見ケアなど 多様な疑問や不安に応える
 がんと診断されたら、どのようなことが頭に浮かぶでしょうか。「治るのか」「どれくらい期間やお金がかかるのか」「この後の人生はどうなるのか」―。それらの疑問の中には不安が潜んでいると思われます。
 がんとひと口に言っても発生した臓器や進行度合いなどにより状況はさまざまです。それによって治療目標も、「治癒」「進行を抑える」「症状を和らげる」…と、それぞれに異なります。それだけに、心配や悩みもその人特有のものがあります。
 医師に答えを求める類いではないものの「誰に尋ねればいいか分からない」という相談ごともあるでしょう。「がん相談支援センター」では、例えば治療費のことであれば高額療養費制度など公的医療保険制度などを紹介し、生活に伴う不安を軽減する情報提供を行います。
 セカンドオピニオンや医療者とのコミュニケーションに関することなど、直接医療者に伝えにくいことも専属の相談員が話を聞き、アドバイスを行います。治療や副作用に関する相談もできますが、治療内容などを判断するところではない点はご了解ください。
 髪が抜けるなど日常生活を送る上で気になる、治療に伴う外見の変化に対するケアについて情報を提供するとともに用品の紹介なども行っています。


【Q】相談員はどんな人?

 相談員は、国立がん研究センターがん対策情報センター主催の「がん相談支援センター相談員研修」を終了したがん専門相談員(看護師・ソーシャルワーカー)です。相談者の困りごとの本質を共に考え、必要と考えられる情報提供や他機関への橋渡しなどを行います。


【どんな活動が行われているの?】 標準治療を踏まえて主治医と相談

 県内のセンターそれぞれに活動が行われています。熊本大学病院の同センターでの活動からいくつか紹介します。

◎就労相談
治療と仕事の両立支援やハローワークの出張相談
 がん治療において悩ましいことの一つに、仕事をどうするかという問題があります。
 働きながら治療をしたい場合、どう両立していくかが課題です。がん相談支援センターには両立支援コーディネーターが在籍し、相談に応じています。主治医と事業所の産業保健スタッフに働きかけ、連携を図ることも可能です。
 また、治療に専念するために休職や離職をした場合には、復職や再就業に向けてハローワークの就職支援ナビゲーターが就労支援を行っています。新型コロナウイルス感染の状況によって、病院内での出張相談かZoomによるオンライン相談になります。

◎ がんサロン・相談会
患者同士でおしゃべりがん経験者へ相談の場も
 患者とその家族を対象としたがんサロンは、県内のさまざまな地域で開催されており、熊本大学病院では毎月第3火曜の午前に開催しています。
 また「がんピアおしゃべり相談会」は、がんの経験者が個別に相談に応じるものです。「ピア」とは、仲間、同輩を意味する言葉。経験者にだからこそ尋ねやすいこともあります。毎月第1火曜と第3木曜の午後に40分ずつ2枠の時間が設けられています。
 いずれも、状況によってはオンラインになります。


【問い合わせ・申し込み】
熊本大学病院がん相談支援センター
☎096(373)5676
受付時間:月〜金曜(祝日及び休診日除く)
8時30分〜17時15分


【熊本大学病院の取り組み】 熊本県のがん診療連携の拠点病院として機能

 熊本大学病院は、都道府県がん診療連携拠点病院に指定されています。病院内に「がんセンター」を備え、その下に「がん相談支援センター」のほか「外来化学療法センター」「がん登録センター」「緩和ケアセンター」「がんゲノムセンター」があります。これらの連携によって、がん診療の質の向上に取り組んでいます。
 また産科婦人科には「生殖医療・がん連携センター」があります。がん治療により妊娠しづらくなる、あるいは妊娠できなくなる若い世代のがん患者さんに対して、治療前に卵子や精子、受精卵の凍結保存を行い、治療後にそれらを用いた妊娠成立を図る妊孕(にんよう)性温存治療も行っています。


【野坂先生からのメッセージ】

 「がん」という病気と向き合うとき、その人らしい治療生活が送れるようサポートを行う拠点が「がん相談支援センター」です。
 気軽に相談できる場所があることを知って活用することで、不安や心配を解消し、明日に向けての意欲につなげてほしいと願っています。

熊大病院がん相談支援センター ホームページ

熊本県がん相談支援センター ホームページ


話を聞いたのは

熊本大学病院
がんセンター・外来化学療法センター
教授・がんセンター長

野坂 生郷(きさと)
がん相談支援センター長、外来化学療法センター長
臨床試験支援センター長
・日本内科学会認定内科医、総合内科専門医、指導医
・日本血液学会認定血液専門医、指導医、評議員
・日本輸血・細胞治療学会認定医
・日本がん治療認定医機構認定医
・ がん薬物療法専門医、指導医 など