すぱいすのページ

「あれんじ」 2023年3月4日号

【慈愛の心 医心伝心】
【第108回】一病息災

一病息災

【第108回】一病息災
熊本大学病院 小児科 
医師
友枝 李果

 総合病院で働いていると、さまざまな病気の方が来られます。小児科領域では、起立性調節障害も中高生などによく見られる病気です。ふらふらして朝から起きられなかったり、頭痛やめまいが起きたりして、「やる気がない性格だ」などと誤解されやすい病気です。
 これは、命に関わる病気ではなく、薬や生活習慣の改善などで見違えるほど元気になる方もいます。しかし、風邪のように2、3日で治るものではなく、若く楽しい時期を長く苦労しながら過ごす方もいます。学校に行けなくなって、将来を心配される方も少なくありません。
 日本には「一病息災」という言葉がありますが、これは一つくらい病気があるほうが案外元気で長生きできるという意味です。健康の大切さは、それを失った人がよく知っていますから、一度病気をした人のほうが自分の体を大切にできるのですね。起立性調節障害の患者さんにこういう話をすると、「自分も元気になれるかもしれない」と、希望を持っていただけることがあります。
 みんな元気で楽しそうに見えても、案外、病気や不調に悩まされていたりするものです。生きていれば、時には病気もします。けれど、病気になったからといって、おしまいではありません。病気になるのはつらいことですが、かけがえのないものに気付くチャンスでもあります。
 今、冬の間枯れたように見えていた木々に新しい緑が芽吹いてきています。悩んでいる方にもきっと、新しく穏やかな春が訪れることを願っています。