すぱいすのページ

トップページすぱいすのページ「あれんじ」 2023年3月4日号 > 命のリレーの最後のバトン 臓器移植医療

「あれんじ」 2023年3月4日号

【元気の処方箋】
命のリレーの最後のバトン 臓器移植医療

昨年は臓器移植法の施行から25周年という年でした。それでも日本では、臓器移植に関する情報に触れる機会は多くありません。そこで今回は、移植医療の基本的な情報をお伝えし、臓器提供意思表示の重要性や方法なども紹介します。
(取材・文=坂本ミオ、イラスト=はしもとあさこ)

【はじめに】 不可欠な、善意による臓器の提供
【表】日本で行われている臓器移植
WHO(世界保健機関)の調査から(出典:GODT)

 重い病気や事故などにより臓器の機能が衰え、他の治療法では治せない状況に陥ってしまった場合に、他の人からその臓器の提供を得て機能の回復を図るのが臓器移植医療です。そのため、臓器移植には第三者の善意による臓器の提供が不可欠です。
 臓器を提供する人を「ドナー」、提供を受ける人を「レシピエント」といいます。ドナーの状態に応じて、臓器移植には以下のような種類があります。
◎生きている健康な方から臓器の提供を受けて移植を行う生体臓器移植
◎脳死の方から提供される脳死下臓器移植
◎心臓が停止した後に提 供される心停止後臓器移植
 移植可能な臓器は多く、心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓、小腸の移植が一般的です。脳死下臓器移植では、心臓を含め多くの臓器を移植することが可能です。


【日本の現状】 少ない臓器提供 肝移植件数(100万人当たり)は世界45位
【図1】国別の人口100万人あたり肝移植
(脳死・心停止下+生体)件数(2020年)
WHO(世界保健機関)の調査から(出典:GODT)

 日本で臓器移植を希望し待機している人は約1万5千人といわれています。それに対して移植を受けられるのは年間約400人です。また、日本では脳死下の臓器移植が少なく、生体臓器移植が主流。欧米とは異なる状況が続いています。
 肝臓を例にお伝えすると、2020年に行われた肝移植件数は、脳死・心停止下、生体合わせて全国で380件。世界で15番目の数ですが、人口100万人当たりの肝移植件数となると45位(図1)。その背景には、臓器提供数の少なさがあります(図2)。
 図3は、移植された肝臓が生体からか、脳死ドナーからかの症例数の日米比較です。総数が圧倒的に違いますし、その比率も全く逆です。


【図2】国別の臓器提供数(2020年)
WHO(世界保健機関)の調査から(出典:GODT)


【図3】脳死肝移植と生体肝移植の割合
日米の症例数の比較(2019年)
日本移植学会 2020臓器移植ファクトブックから


求められている 自国での臓器移植の推進

 さまざまな配慮や繊細さが求められる生体臓器移植手術が多い日本では、医療技術が高度化する一方、多くの人を助けられる状況にはなっていません。
 移植しか命をつなぐ方法がない場合、国内での臓器提供に期待が持てず、海外で脳死下の臓器移植手術を受けようと考える患者さんもいます。しかし、世界的な移植用臓器の不足を背景に臓器売買や渡航移植などの問題が顕著になり、2008年に国際移植学会がイスタンブール宣言を採択。そこには、自国での臓器移植の推進(移植が必要な患者の命は自国で救う努力をすること)がうたわれています。


【熊本の現状】 肝臓、腎臓の移植手術が可能 提供臓器は全国に
【図4】熊本大学の肝移植(2017年10月〜2021年10月)

 熊本で脳死下および心停止後の移植手術を受けられるのは、公益社団法人日本臓器移植ネットワークが移植施設として認定した熊本大学病院と熊本赤十字病院になります。
 熊本大学病院では肝臓、腎臓の、熊本赤十字病院では腎臓の移植手術が実施されています。生体ドナーの場合も同様です。小腸移植については、熊本大学病院が脳死下の臓器移植施設の認定を取得していますが、まだ移植実績はない状況です。
 熊本大学病院の肝移植は通算600件(国内で5番目)におよび、他施設と同様に生体ドナー(日本では親族に限定)がほとんどを占め、最近5年も図4のように良好な成績を収めています。
 一方で、ドナーの提供する臓器は、ドナー自身がどこに住んでいようと日本全国の必要とされる地域に運ばれ、移植されます(腎臓は地域ブロック内)。


【意思表示】 したい/したくない 等しく尊重される意思

 医療の進歩は、臓器移植によって助かる命を増やしています。そして、移植外科医は命のリレーの最後のバトンを託される立場として手術に臨んでいます。しかし、ドナーがいて初めてそのチャレンジができます。
 私たちは、ドナーになることもできればレシピエントになる可能性もあります。臓器を提供したい/したくない/臓器移植を受けたい/受けたくない。これらはどれも等しく尊重されるべきもので、どれかを強要されるものではありません。ただ、その意思を表すことの大切さを知ってほしいと思っています。
 そのために「自分はどうしたいか」を考え、「それを家族はどう思うか」などを話し合う機会を持ってもらいたいのです。ドナーの意思表示があっても、ご家族の同意がなければ実施されません。臓器提供についての考えを家族で話し合う場を持つことから始められてはいかがでしょうか。
 臓器提供の意思は、以下の方法で示すことができます。
◎健康保険証
◎運転免許証
◎マイナンバーカード
◎意思表示カード
◎インターネットによる意思登録
 意思表示は変更が可能です。気持ちが変わったら、そのときにまた新たな意思に書き換えることができます。


【Q&A 日比先生に質問!】

Q高齢でも臓器提供できますか?
A:できます。年齢に上限は設けられていません。2023年1月には70代の男性が法的脳死と判定され、心臓、肺(東京大病院)、肝臓(東北大病院)、腎臓(長崎大病院、熊本赤十字病院)がそれぞれ移植されました。

Q脳死とはどのような状態ですか?
A:脳幹を含む脳全体の機能が失われ、回復する可能性がない状態を指します。一部が機能している植物状態とは全く違うものです。日本では、臓器提供を前提とした場合に限って脳死判定をします。また、その判定は厳密に行われます。


話を聞いたのは
熊本大学病院
小児外科・移植外科
教授 日比 泰造
移植医療センター長

・日本外科学会 専門医・指導医
・日本消化器外科学会 専門医・指導医
・日本肝胆膵外科学会 高度技能専門医・評議員
・American Society of Transplant Surgeons認定医
・日本移植学会 認定医
・日本がん治療認定医