すぱいすのページ

トップページすぱいすのページ「あれんじ」 2023年2月4日号 > 一人で悩まず相談を 円形脱毛症とその治療

「あれんじ」 2023年2月4日号

【元気の処方箋】
一人で悩まず相談を 円形脱毛症とその治療

 円形脱毛症は人から見られることが多い頭に起きるため気になるものです。そのため回復までの時間が長く感じられてしまうかもしれません。今回は「円形脱毛症」の種類や原因、治療法についてお伝えします。(編集=坂本ミオ、イラスト=はしもとあさこ)

【はじめに】 重症や多発の場合も 見た目の印象にも影響

 円形脱毛症はその名の通り円形に脱毛する病気です。円形の大きさがちょうど10円玉くらいのことも多く「10円ハゲ」などと呼ばれたりします。
 軽症の場合はいつのまにか治ってしまうことも多いのですが、重症の場合は10円玉が500円玉になり、さらに大きくなったり、多発したりします。
 円形脱毛症で皮膚科を受診する患者さんは多く、その中には治療が効きにくい患者さんもいらっしゃいます。毛髪以外の症状として爪に異常を来す場合もあるのですが、内臓を侵す病気ではありません。しかし、頭髪は見た目の印象に大きく影響することから、患者さんはとても悩み、生活の質(Quality of Life: QOL)が大きく低下することになります。
 円形脱毛症はどういう病気なのか、原因は何なのか、そして有効な治療法はあるのかなどを解説します。


【円形脱毛症ってどんな病気?】
【図1】円形脱毛症の種類

●重症にはいくつかのタイプが
 円形に脱毛することが多く、脱毛が1カ所であれば「単発型」、2カ所以上あると「多発型」と呼びます。いずれも範囲が小さければ軽症ですが、頭皮の25%以上になると重症になります。
 重症の円形脱毛症には「多
発型」や、首筋近くの後頭部や耳の周りの側頭部などが脱毛する「蛇行型」、頭髪の全てが抜ける「全頭型」、眉毛や脇毛など体毛も抜けてしまう「汎発(はんぱつ)型」という種類もあります(図1)。
 重症化すると治療に長くかかりますので、早期発見し早期治療することが大事です。


【円形脱毛症の原因はストレス?】
【図2】自己免疫反応

●ストレスが「自己免疫反応」のきっかけに
  円形脱毛症の原因は、長い間ストレスとされてきましたが、ストレスは発症のきっかけに過ぎないと最近では考えられています。
 円形脱毛症では、頭髪に「自己免疫反応」が起きています。通常の免疫反応では、外からウイルスや細菌など外敵が入ってきた際にTリンパ球が攻撃します。しかし、このTリンパ球が異常を起こし、毛根など正常な組織を攻撃してしまうことがあります。これを「自己免疫反応」と呼びます(図2)。
 ストレスは免疫系が異常を起こすきっかけになり得ます。円形脱毛症を発症した患者さんに話を聞いてみますと、精神的なストレスは特にないと言う方が多いのですが、ストレスは自覚するものだけとは限りません。交通事故や身内の不幸の後に発症した、という方もいらっしゃいます。最近では新型コロナウイルス感染後に脱毛が起こることも知られるようになりました。
 このように広い意味で何らかのストレスによって免疫系に異常を来し、円形脱毛症が発症すると考えられています。


【円形脱毛症の治療法は?】

●最初の治療で3〜6カ月経過を確認
 最初の治療法としては、ステロイドや塩化カルプロ二ウムなどの塗り薬や、グリチルリチン、セファランチンなどの飲み薬があります。そのほかエキシマライトやナローバンドUVBという光線治療を行う場合もあります。光線治療は、脱毛した部分に光を当て、異常を起こしたTリンパ球を抑える治療です。
 これらの治療を行い、3〜6カ月経過を見ます。それで効果が現れない場合は、次の段階の治療に進みます。
 脱毛の範囲が小さい患者さんには、脱毛している部分にステロイドを注射する方法を行います。1回の注射で薬が行き渡る範囲が1㎠なので、複数回の注射が必要です。また、この治療は小さなお子さんにはできません。
 脱毛範囲の広い重症の患者さんには「局所免疫療法」という治療を行います。これは化学物質を脱毛している部分に塗って軽いかぶれを起こし、脱毛を治すという方法です。公的健康保険の対象外の治療法になりますので、どこの医療機関でも受けられるというものではありません。


重症者には高い有効性が期待できる薬も

 以上に述べた治療はこれまでずっと行われてきた方法ですが、実はプラセボ(偽薬)との比較試験というきちんとした治験で効果が立証されたものではありませんでした。
 最近、国際共同治験でプラセボに対する有効性を実証した飲み薬が出てきました。JAK阻害剤という免疫抑制剤です。15歳以上で、頭部のおおむね 50%以上の脱毛が6カ月以上続いている患者さんが薬剤投与の対象になります。
 従来の治療に比べて高い有効性が期待できる薬ですが、投与前後の検査なども必要であり、学会に登録している皮膚科専門医による処方となります。治療希望の方はお近くの皮膚科専門医に相談してみてください。


執筆者
熊本大学病院
皮膚科
福島 聡 教授
医学博士

・皮膚科専門医
・アレルギー専門医 指導医
・皮膚悪性腫瘍指導専門医
・がん治療認定医
・免疫療法認定医