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「あれんじ」 2023年1月14日号

【元気の処方箋】
それぞれに治療法ある 尿失禁

 経験しても相談しにくいのが「尿失禁」かもしれません。さまざまなタイプがあり、治療で改善が図れます。今回は「尿失禁」の種類や、それぞれの治療法などについてお伝えします。(編集=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

【はじめに】 さまざまなタイプがある尿失禁

 「尿失禁」とは、自分の意思と関係なく尿が漏れてしまうことで、40歳以上の女性の4割以上が経験しているといわれています。
 生活に支障が出るほど困っていながらも、その恥ずかしさから泌尿器科を受診せず我慢している方が非常に多くいます。また、「年のせい」と思っている方も少なからずおられます。
 尿失禁にはさまざまなタイプがあり、それぞれに対して治療法があります。尿失禁でお困りでしたら少し勇気を出して泌尿器科を受診してみませんか。


【尿失禁の種類】 女性に多い腹圧性、切迫性 男性に多い溢流(いつりゅう)性
【図1】腹圧性尿失禁

 尿失禁は大きく分けると、以下の4つに分類されます。
@腹圧性尿失禁(図1)
 せきやくしゃみをしたとき、重い荷物を持ち上げたとき、走ったときなど、おなかに力が入ったときに起こる尿失禁です。
 女性の尿失禁の中では最も多く、週1回以上経験している女性は500万人以上いるといわれています。
 腹圧性尿失禁は骨盤底筋群という骨盤底を支えている筋肉が衰えることで起こります。骨盤底筋群が衰える原因としては妊娠や出産、加齢などがあります。また、肥満、ひどい便秘など腹圧のかかる生活習慣も骨盤底筋群を傷める原因となります。男性では前立腺がんの手術後に見られます。
A切迫性尿失禁(図2)
 急に尿がしたくなり(尿意切迫感)、トイレまで我慢できずに尿が漏れてしまうのが切迫性尿失禁です。特に「冷たい水を扱うとすぐにトイレに行きたくなる」と訴える方が多いように思います。このような症状のため遠出や乗り物に乗ることが難しくなります。
 脳血管障害など原因が明らかなこともありますが、多くは特に原因がないのにトイレに着く前に勝手に膀胱(ぼうこう)が収縮してしまい、尿意切迫感が起こったり、切迫性尿失禁が起こったりします。
 男性では前立腺肥大症が、女性では骨盤臓器脱が原因となっていることもあります。
B溢流性尿失禁(図3)
 自分で尿を出したいのに出せず、しかし尿が少しずつ漏れ出てくるのが溢流性尿失禁です。
 膀胱の容量の限界まで尿がたまっているけれども排尿障害のため尿が出せず、膀胱に収まりきらなくなった尿が少しずつ漏れ出ている状態です。
 溢流性尿失禁は男性の前立腺肥大症や、直腸がん・子宮がんの手術後で骨盤内の排尿に関する神経の機能低下を起こす神経因性膀胱によるものが多くを占めます。
 溢流性尿失禁は腹圧性尿失禁や切迫性尿失禁と異なり、男性に多くみられます。
C機能性尿失禁
 排尿機能には問題ないが、身体機能の低下や認知症が原因で起こる尿失禁です。
 例えば歩行障害のためトイレまで間に合わない、認知症のためトイレが分からなくなり、部屋で放尿してしまうといったケースです。
 このタイプでは排尿機能には問題ないため、治療としては介護や生活環境の見直しなどとなります。


【図2】切迫性尿失禁


【図3】溢流性尿失禁


【検査】 検査によって 尿失禁のタイプの判別も

 まずは問診と尿検査、超音波検査(エコー)による残尿測定を行うことで体に負担を与えずに、大まかに診断をつけることができます。
 また、排尿日誌をつけてもらうことで排尿回数や排尿量、尿失禁量の程度が分かります。
 その他必要に応じて内診台での診察、チェーン膀胱造影検査、パッドテスト、尿流動体検査、膀胱鏡検査を行います。
@尿検査
 血尿の有無や膀胱炎などの尿路感染症の有無を調べます。
A内診台での診察
 腹圧をかけた時の尿の漏れ具合や骨盤臓器脱の有無を確認します。
Bチェーン膀胱造影検査
 膀胱に細いチェーンのついたカテーテルを挿入し、膀胱内に造影剤を注入し、膀胱と尿道の角度などを調べます。腹圧性尿失禁の検査として行います。
Cパッドテスト
 水分摂取後にパッドをつけ60分運動を行います。パッドに漏れた尿量を測定し尿失禁の重症度を判定します。腹圧性尿失禁の検査として行います。
D尿流動体検査
 膀胱に生理食塩水を注入し、尿がたまった状態を再現。その後排尿しながら膀胱内圧などを調べます。膀胱と尿道の機能を調べる検査です。
E膀胱鏡検査
 内視鏡で膀胱や尿道を観察し、腫瘍の有無などを調べます。


【治療】 保存的治療、薬物や行動療法など タイプによって異なる治療

◎腹圧性尿失禁
 まずは骨盤底筋体操を行い、尿道括約筋や骨盤底筋群を鍛えます。肥満があれば、ダイエットが有効なこともあります。
 これらの方法で改善しない場合は、内服薬による治療やポリプロピレンメッシュのテープで尿道を支える「TVT手術」や「TOT手術」を行います。
◎切迫性尿失禁
 主に薬物療法と行動療法があります。薬物療法では膀胱の過敏な働きを抑える抗コリン薬や、膀胱の筋肉を緩めるβ3刺激薬を用います。
 抗コリン薬には副作用として口の渇き、便秘、目のかすみなどが挙げられます。また緑内障や心臓疾患などの持病がある場合は内服治療ができないことがあります。
 行動療法には尿意を我慢する膀胱訓練、骨盤底筋体操などがあります。
◎溢流性尿失禁
 前立腺肥大症が原因であればそれに対する治療を行います。骨盤内手術による神経因性膀胱に対しては内服治療を行い、必要があれば間欠的自己導尿(一定時間ごとに自分自身で尿道から膀胱にカテーテルを入れて排尿する)を行っていただきます。


【おわりに】

 このように、尿失禁はその種類や程度によりさまざまな治療法があります。検査も負担の小さいものがほとんどです。同じ症状の方々が多く受診しています。
 尿失禁でお困りの方はこれをきっかけに泌尿器科を受診し、快適な生活を取り戻すことをお勧めします。


熊本大学病院 泌尿器科
助教
村上 洋嗣

・日本泌尿器科学会指導医
・日本泌尿器科学会専門医
・日本がん治療認定医機構 認定医
・日本泌尿器内視鏡学会 泌尿器腹腔鏡技術認定医
・日本内視鏡外科学会 技術認定医