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「あれんじ」 2022年12月3日号

【元気の処方箋】
女性に多いのはなぜ? 手指の痛み

 「手指が痛い」という訴えを、女性から多く聞く印象があります。痛みの原因となる疾患はさまざまですが、女性ホルモンとの関係がありそうです。今回は、女性に多い手指の痛みについてお伝えします。
(取材・文=坂本ミオ、イラスト=はしもとあさこ)

【はじめに】 多様な手指の疾患 早めの受診を

 一口に「手指が痛い」といっても、その中には、外傷(けが)、加齢による変性疾患、神経性のしびれからくるもの、関節リウマチのような炎症性疾患、皮膚に原因があるものなどさまざまです。
 それだけに、どこを受診すればいいのか迷われることもあるでしょう。そうしているうちに痛みが悪化する場合もあります。整形外科を受診すれば必要に応じて他科につないでもらえると考えて、早めの受診を心掛けてください。
 また、痛みを訴えて受診される患者さんの大半は女性です。
 下に、特に女性に多いと感じる手指が痛む疾患の一部を紹介しています。
 ここでは、各疾患の症状の特徴について伝えると共に、なぜ女性に多いのか、治療法などを紹介します。


【症状】 痛みや腫れ、しびれ 変形が起きることも
【図 女性に多い手指が痛む疾患】

 図に示しているように、疾患の種類は違っても、痛みと共に手指の動きが自由にならなかったり、物をつかんだりひねったりする動作ができなくなるなどの症状が多く見られます。家事や育児などを担うことが多い女性にとっては苦痛なだけでなく、日常生活に支障を来してしまいます。
 痛みやしびれに悩まされ、時間の経過と共に手指の変形を起こすものもあり、精神的なダメージも大きいといえます。

●ばね指・腱鞘(けんしょう)炎
指が動かしにくい。カクカクする。曲がったまま伸びない、あるいは伸びたまま曲げられない。指の付け根が痛い。中指と親指に多く見られる。

●ドケルバン病
親指側の手首に腫れと痛みが起きる。親指を曲げたり伸ばしたりすると痛みが強まるため、物がつかみづらくなる。

●へバーデン結節
指の第1関節が腫れたり曲がったりして痛む。痛みのために手指で強く握れない。水ぶくれのような膨らみが出てくることも。

●ブシャール結節
指の第2関節が腫れて痛む。こぶ状に膨らみ、指が曲がって変形してくる。痛みが強い場合もあれば、全くない場合もある。

●母指CM関節症
瓶のふたなどを開けようとすると、親指の付け根が痛くてできない。動作後に痛むことも。進行すると親指が開きづらくなる。

●手根管症候群
親指から薬指にしびれや痛みを感じる。特に深夜の痛みに目が覚めるほど。起床時に手がこわばっていることも多く、手を振ると楽になる。



【原因】 女性ホルモンの一種 エストロゲンの低下が関係か

 ばね指・腱鞘炎、ドケルバン病は更年期、妊娠時、産後の女性に多く見られます。ヘバーデン結節は40代以降の女性に多く見られ、ブシャール結節は閉経前後あるいは更年期以降の女性に多く見られます。
 このようなことから、手指の痛みや腫れ、変形などに女性ホルモンの一種であるエストロゲン濃度の低下や変動との関連が考えられています。
 これらは関節の滑膜や腱や神経が通る管の滑膜に起きる炎症が原因ですが、更年期などによるエストロゲンの減少が滑膜炎を起こしているのです。
 エストロゲンは女性の体のさまざまなところで潤滑油的な働きをしています。関節などの滑膜を構成する細胞にもエストロゲンを受け止める受容体があり、そこにエストロゲンが作用することで関節や腱をしなやかに保つのですが、受容体はあってもエストロゲンが来なくなると、その働きができなくなるわけです。ですので、エストロゲンの減少による手の障害は、誰もがなる可能性があるといえます。


【治療】 装具を使って生活しながら安静を保つ方法も

 消炎・鎮痛剤を使いますが、痛みが出たら安静にすることが大事です。症状が出た後に手指を使い過ぎると、治りにくくなってしまいます。
 といっても、手を使わずに日常生活を送ることは難しいものです。特に出産後の手の痛みの場合、授乳の関係で特定の薬を使えないこともある上、痛くても授乳やおむつ替えなどどうしても手を使うことが必要になるでしょう。そこで、痛む箇所を保護しながらも日常生活に困らないよう使い勝手を考えられた装具を使って、安静を保つ方法がとられます。リハビリの一環として行いますので、セラピストがいる医療機関に相談しましょう。

<疾患の種類、程度によって治療法を選択し改善を>

 初期であれば、エストロゲンとよく似た働きをする成分の物質エクオールを含有したサプリメントも有効だといわれています。症状が重い場合は、それぞれに手術療法があります。医師と相談しながら治療法を選び、改善を図ってください。 
 へバーデン結節やブシャール結節は5年、10年かけながら手指の変形を起こす可能性があります。また、手根管症候群では他の疾患との鑑別が難しい場合があります。朝、こわばりがあるときに手を振ると楽になるという特徴的な症状があるので、自分の症状をしっかり把握して医師に伝えましょう。


【おわりに】 痛みを軽減させながら「付き合う」気持ちも

 手指の痛みは治療によって改善しても繰り返す場合や、完全に痛みが治まらない疾患もあります。痛みを極力軽減させながら、ある程度は「痛みと付き合っていく」気持ちも持っていた方がいい場合もあります。
 手に特化した日本手外科学会のホームページには、認定施設などの情報があります。お悩みの方は参考にされてはどうでしょうか。

日本手外科学会ホームページ
代表的な手外科疾患、手外科専門医・認定施設、Q&Aなど、手外科に関する情報が掲載されています


話を聞いたのは
熊本機能病院
副院長
寺本 憲市郎

専門分野 
手外科、機能再建外科
・日本整形外科学会専門医
・日本手外科学会専門医、指導医
・日本マイクロサージャリー学会