鵙鳴くやホームに立てばみな旅人(たびと) 中正
俳句は日記のようなもので、その一句から楽しかった旅の風景がすぐよみがえってくる。最近いただいた今福公明『旅路』は、人生の旅であり鉄道の旅の句集。ページをめくると、SLの力強い声が聞こえたり、旅先の蕎麦(そば)屋の黒々とした筆のお品書きまで見えてくる。さわやかで、旅情たっぷりの句集。
SLの頑固一徹走る秋(大井川鐵(てつ)道) 今福公明
品書の墨痕(ぼっこん)にほふ走り蕎麦(山形鉄道終点) 〃
最近は写真俳句も盛んだが、俳句はフォト感覚の写生から入ればいい。以下は、今よりもっと若い頃の宮崎の旅。一句一句から秋風が吹き、旅の仲間の姿が見える。なお三句目の「秋思(しゅうし)」は、春の「春愁(しゅんしゅう)」とはちょっと違う、秋のどこか物さびしい思いのこと。
万物のはじまりは霧かもしれぬ(霧島) 中正
一水(いっすい)のぐんぐん澄んで詩となるか(若山牧水生家) 〃
突如沖に白濤(しらなみ)あがる秋思かな(美々津港) 中正 |