すぱいすのページ

トップページすぱいすのページ「あれんじ」 2022年9月3日号 > 緊急時に適切な医療を受けるためにも理解したい 新型コロナウイルス感染症と緊急医療

「あれんじ」 2022年9月3日号

【元気の処方箋】
緊急時に適切な医療を受けるためにも理解したい 新型コロナウイルス感染症と緊急医療

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大が繰り返されるたびに心配される医療現場の逼迫(ひっぱく)。中でも救急医療の現場では、コロナ以外の緊急を要する患者受け入れへの影響などさまざまな課題があります。今回は、新型コロナウイルス感染症のまん延と救急医療の現状についてお伝えします。 (編集=坂本ミオ、イラスト=はしもとあさこ)

新型コロナウイルス感染症の流行

■致死率の高い疾患から変化
 中国で新型コロナウイルス感染症が最初に報告されてから2年半が経過しました。しかしながら、感染は終息することなく、現在まで増減を繰り返しています。熊本県では今年7月、第7波において、人口10万人あたりの1週間の患者数が全国でも上位になりました。
 新型コロナウイルス感染症は、確認された初期には呼吸障害を来して人工心肺装置(ECMO=エクモ)を必要とする症例も多く、致死率の高い疾患とされていました。
 その後、時間の経過とともにデルタ株やオミクロン株などの変異株の報告があり、現在はオミクロン株BA・5が主流とされています。潜伏期間が短縮し、隔離解除までの期間も短くなっています。

■感染増で医療機関などの対応困難が課題に
 新型コロナウイルスの株が変異することで感染力が強くなりましたが、重症者の増加が目立っているわけではありません。熊本県では、初期には高齢者施設でのクラスター(集団感染)、その後は透析患者、妊婦、医療従事者の感染などが問題となり、最近では若年者の感染拡大が問題となっています。児童の罹患(りかん)による家庭内感染によって医療従事者の出勤停止がさらに増えると、通常の外来や入院治療の維持が困難となります。
 最近の報告では、入院患者の特徴として、新型コロナウイルス感染症自体での重症化症例への対応が必要というより、高齢の一般的な肺炎や基礎疾患増悪で入院継続が必要であると判断される人が多いようです。新型コロナウイルス感染症が重なることで、かかりつけ病院や施設で対応できなくなることが課題であると考えます。


現在の救急医療体制
【表】新型コロナウイルス感染症に対応した医療提供体制
(R4.8.19時点)
熊本県ホームページより

■熊本の医療が崩壊しないよう各施設が努力
 現在の新型コロナウイルス感染症まん延時の医療は、ある面で災害時の医療に似ています。大量に感染者が出てしまうと通常の医療体制が逼迫し、緊急性の高い患者が受診するまでに時間がかかるようになってしまうからです。
 現在、熊本大学病院、国立病院機構熊本医療センター、熊本赤十字病院、済生会熊本病院の三次医療機関と県内各地域の二次医療機関で、多くの新型コロナウイルス感染症の患者を受け入れています。
 三次医療機関では、新型コロナウイルス感染の患者への対応を行っていますが、新型コロナ以外の重症患者への対応も行っています。熊本県における医療が崩壊しないようにするために、各施設では病床を拡張するなどの努力をしています(下表)。
 熊本市内では、新型コロナ陽性と診断され、自宅療養もしくはホテル療養となった方に関して、状態悪化を認めた場合には保健所を介して受け入れ病院が輪番制で対応することとしています。
 診断が確定していない発熱患者が救急車を呼んだ場合、救急隊員が搬送の受け入れ先を探します。時間外に救急搬送を受け入れる病院の数には限りがあり、搬送先決定までに長時間待機となる例が報告されています。


MEMO:発熱等の症状がある場合の医療機関の受診について
熊本県ホームページより一部抜粋

 発熱等の症状があった場合は、かかりつけ医や最寄りの医療機関等の身近な医療機関に必ず電話連絡のうえ受診ください。相談した医療機関で診療等ができない場合は、診療検査医療機関の受診が可能です。


新型コロナウイルス感染症や熱中症による脱水

■点滴同様の効果がある「経口補水液」
■空調による温度管理で予防を
 6月以降は新型コロナウイルス感染症以外にも気温上昇に伴う熱中症の発症が多くなり、発熱患者対応が増えています。熱中症で問題となるのが脱水です。
 特に小児や高齢者では、体の水分が不足することで体調不良が起きやすくなります。
 熱中症や嘔吐(おうと)・下痢では、水分だけでなく、塩分などのミネラルを取る必要もあります。病院で点滴をして症状が良くなったという声をよく耳にしますが、現在は「経口補水液」と呼ばれる、口から摂取することで点滴と同様に補液の効果を期待できる飲み物もあります。
 新型コロナウイルス感染症による発熱でも、水分の補給は大事です。「経口補水液」は、熱中症や新型コロナウイルス感染症に伴う発熱や嘔吐・下痢に伴う脱水などに効果が期待できます。
 また、予防として屋内であっても空調による適切な温度管理を行い、水分補給を怠らないことをお勧めします。


ウィズコロナ時代における生活習慣

■行動制限がない中、自分でできる感染対策を
 ワクチンに関しては重症化予防の効果は評価されていますが、一定期間が経過すると効果が減弱することが報告されています。
 重症化リスクの高い疾患をお持ちの方では、ワクチンを接種するメリットが副反応のリスクを上回るため、接種が推奨されています。60歳以上もしくは基礎疾患がある成人では4回目のワクチン接種が準備されていますので、対象となる方は検討していただきたいと思います。
 経済活動を回しながら感染症対策を行うことが必要とされ、緊急事態宣言のような行動制限も行われなくなってきました。
 しかし、新型コロナウイルス感染症を克服したわけではありません。今後は、「ウィズコロナ時代」と呼ばれるように、感染症対策をしながら通常生活を行っていくようになります。感染リスクの低い屋外ではマスクを外すことも問題がないとされています。
 県民の皆さんが、緊急時に適切な医療を受けるためにも、自分でできる感染対策(人と接する際のマスク着用、うがい、手指消毒、適切な距離の確保など)をまずは行っていただき、@自分が感染しない A家族を感染させない B周りの人を感染させない―という努力をしていただく必要があります。


執筆者
熊本大学病院救急部 
部長(教授)
入江 弘基
・日本救急医学会専門医
・日本整形外科学会専門医・スポーツ医
・日本リハビリテーション医学会専門医
・日本手外科学会認定専門医
・日本DMAT隊員(統括)
・JATECインストラクター
・熊本県災害医療コーディネーター
・熊本県メディカルコントロール協議会会長