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「あれんじ」 2022年7月2日号

【元気の処方箋】
さまざまな課題に応える 遠隔医療

「オンライン診療」は、コロナ禍によって耳にする機会が増えた言葉かもしれません。今回は、社会的な課題を解決するために進むデジタル化の一つである「遠隔医療」についてお伝えします。
(編集=坂本ミオ イラスト=はしもと あさこ)

【はじめに】 医療資源の偏在や通院に課題 医療サービスの確保貢献に期待

 少子高齢化や地方の過疎化に伴い、医療資源(医療従事者、医療機関など)の偏在が生じています。
 一方で、身体的な理由や、新型コロナウイルス感染症拡大による外出控え、移動距離・時間の長さや不十分な公共交通サービスなどのため、通院が大きな負担になっている場合もあります。
 このような中、遠隔医療が医療サービスの確保に貢献することが期待されています。


【遠隔医療とは】

◆広く隔たりのない医療サービスを

 遠隔医療はICT(情報通信技術)を活用して、医療従事者、患者などの各関係者をネットワークで結び、医療情報を伝達・提供・共有して、広く隔たりのない医療サービスを提供することを目指しています。
 例えば、離島などのへき地においても、必要な医療の提供が可能となり、さらに専門医による高度で専門的な診断や診療を受けられるようになります。


【遠隔医療の分類】

免疫系が過剰に強く反応
 遠隔医療は、どの関係者間で情報の伝達・提供・共有を行うかによって
@医療従事者間の遠隔医療
A医療従事者と患者間の遠隔医療
の二つに分類されます。


@ 医療従事者間の遠隔医療 多様な方法で医療の質向上に寄与

 代表的なものは、Doctor to Doctor(D to D)と呼ばれる医師と医師の間で診療支援などを行うものです。
 例えば、へき地の診療所の医師が、中核病院の専門医と同じ画像を見ながら診療上の相談を行う遠隔相談や、地域病院で撮影されたCTやMRIなどの画像情報を、遠隔地にいる放射線科の専門医が確認して診断を行う遠隔画像診断、手術中に組織の画像や顕微鏡の映像を遠隔地の病理医がリアルタイムに診断する遠隔病理診断などがあります。
 また熟練した医師が、手術の映像を元に、現地の医師に遠隔手術指導を行うなど、外科的治療にも取り組みが進んでいます。


A 医療従事者と患者間の遠隔医療 時間や場所の制約を受けないオンライン診療

 代表的なものに、医師と患者間のDoctor to Patient (D to P)で実施するオンライン診療があります。
 オンライン診療は遠隔地にいる医師が、患者の映像や伝送された生体情報(体温、血圧、脈拍など)を確認しながら、診療を行います。
 場所や時間の制約を受けずに受診することができるため、直接出向いて受診することが困難な患者に対して、医療の提供が可能となります。また接触が避けられるため、コロナ禍では病院内での感染防止につながります。
 現在、診察だけでなく処方箋発行や服薬指導もオンライン対応が可能になり、薬を配送してもらえる場合もあります。


訪問看護師がサポートする場合も

 一方、画面越しの診察になるため、診断に必要な情報が十分得られないなどの問題があります。
 また高齢者など通信機器に不慣れな場合、運用が難しくなります。そのため訪問看護師 (Nurse) などが患者宅を訪問して機器の取り扱いや診察のサポートを行う場合もあります(D to P with N)。
 患者の外来受診や医師の訪問診療などの対面による診療と組み合わせながら、補完のためオンライン診療を活用することもできます。
 まだ利用者は限られていますが、通信環境の整備や技術の進展によって、遠隔医療がさらに普及し、幅広く利用されるようになることが予想されます。


【MEMO】 最適な治療につなぐ医療のデジタル化

 今後、政府も医療のデジタル化を推進していく方針です。
 具体的には自治体や病院、薬局などをデジタル情報でつなぐプラットフォーム(土台となる環境)を作り、電子カルテ、診療報酬明細書、予防接種などの情報を共有できるように一元的に管理するというものです。
 これを活用して、国民が最適な医療や介護を受けられるように環境を整備し、また感染症の流行状況を的確に把握する計画です。


【ICTを活用した熊本県内での取り組み】
【図】くまもとメディカルネットワーク概要イメージ

◎くまもとメディカルネットワーク
広域、多職種で情報を共有
質の高い医療や介護を
 利用施設(病院・診療所・薬局・訪問看護ステーション・介護施設など)をネットワークで結び、参加者(患者)の治療歴、検査データ、画像データなどの情報を多職種間で共有できる広域医療ネットワークのシステムです(図)。
 これにより検査の重複が避けられ、治療の経過や効果などを医療や介護サービスに生かすことができます。
 参加の申し込みは利用施設でできます。費用はかかりません。現在、参加者(患者)は県内で7万人を超えています。


◎脳卒中に対する遠隔医療診断支援システム 迅速・的確な診断体制で 後遺症の軽減や救命率向上に

 急性期医療体制強化のために、熊本県内の一部の医療機関にて遠隔医療診断支援システムを運用する研究が行われています。
 脳卒中は速やかに的確な診断を行い、治療を開始することが重要です。救急隊が入力した患者情報のデータから予測された脳卒中の病型を医療機関の専門医に伝送します。専門医はスマートフォンなどの携帯端末でその情報を閲覧して迅速に診断し、病院選定を適切に行うとともに、救急隊の技術向上を図っています。
 これにより、脳卒中患者を受け入れた病院で早期に治療を行うことができ、後遺症の軽減や救命率の向上が期待できます。


執筆者

熊本大学大学院
生命科学研究部
放射線診断学講座
教授 平井 俊範

・日本医学放射線学会 放射線診断専門医
・日本インターベンショナルラジオロジー学会専門医
・日本医学放射線学会 研修指導医