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「あれんじ」 2010年11月6日号

【【慈愛の心 医心伝心】】
【第8回】 お医者さん

女性医療従事者によるリレーエッセー 【第8回】

【第8回】 お医者さん
熊本大学医学部附属病院
小児科
医師 服部 希世子

 「どうやったらお医者さんになれるんですか?」。小児科外来を受診したお子さんから質問されたことがあります。幼いころに抱いていた「お医者さん」のイメージに自分はまだまだ到達できていないと思っているのに、お子さんから見たら私も「お医者さん」なんだ、と思うと恥ずかしい気持ちになり、「お母さんの言うことをちゃんと聞いていたら、きっとお医者さんになれるよ」。そう答えた記憶があります。
 私は今、大学病院に勤めています。同じ小児科でも病院によって診る病気の種類が異なり、長く治療を必要とする慢性の病気や重い症状の病気を診ることが多いのが大学病院です。大学病院の小児科病棟では、治療のため食事制限があって好きな食事やおやつが食べられず、毎日薬を飲み続けなければならないお子さんが多く入院してこられます。わがままや好き嫌いを言うのが子どもだと思いますが、よく頑張ってくれて、付き添いのお母さんやご家族にも助けられながら毎日の診療をしています。
 入院してきた時は目も開けられなかったのに笑ってくれるようになった赤ちゃんと、元気になった赤ちゃんを抱っこしているお母さんの笑顔。採血をしようとしたら、「先生、痛くないから失敗しても大丈夫だよ」と言ってくれた4歳の女の子。病室に入ってくる先生や看護師さんにいたずらを考えている小学生の男の子や、昨日作った編み物を見せてくれる中学生の女の子。
 くじけそうな時や情熱を失いそうな時、それでも小児科病棟に来れば「役に立てるように今日も頑張ろう」と自然にそう思えます。患者さんである子どもたちが、実は私にとっての「お医者さん」なのかもしれません。
 「日が昇るように、子どもには発達があり未来がある」。小児科医になって本当に良かった。そう思っています。