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「あれんじ」 2022年5月14日号

【元気の処方箋】
早めに医療機関に相談を 回復可能な気分障害

長く続くコロナ禍での閉塞感や不安、新年度が始まっての緊張などから「気持ちが落ち着かない」と感じる人も多いかもしれません。そこで今回は「気分障害」という病気について、症状や診断、治療法などをお伝えします。(編集=坂本ミオ、イラスト=はしもとあさこ)

【はじめに】 重点的に対策に取り組むべき「精神疾患」

 新年度を迎えて、環境の変化からメンタルの不調を来す方も多いと思います。
 厚生労働省は「4大疾病」と位置付けて重点的に対策に取り組んできた「がん」「脳卒中」「心臓病」「糖尿病」に、新たに「精神疾患」を加えて「5大疾病」としています。
 今回は、精神疾患の中で最も多い「気分障害」について説明します。


【気分障害とは】
【図1】気分障害について

<気分の浮き沈みが大きく学業・仕事・家事などに支障が>
 人間誰しも気分の浮き沈みはあると思いますが、その浮き沈みが極端に大きく、不調の期間が長いものを気分障害といいます。
 「落ち込むこと」。これは、専門的には抑うつ気分≠ニ言いますが、それに加えて興味や喜びの感覚が鈍くなったり、眠れない、食事が欲しくないなどの体の症状を伴い、学業・仕事・家事などに支障が出る状態が長く続く場合を「うつ病」といいます。
 一方で、「うつ病」の方の一部に、通常よりもテンションが高い状態、例えば、気分良くしゃべり続ける、大げさな内容が多い、電話・メールなどが増える、金遣いが荒くなり外出が多くなる、怒りっぽくなる、寝なくても元気…などの「躁状態」の時期を伴うものを、「躁うつ病」あるいは「双極性障害」といいます(図1)。
 「双極」というのは「うつ」と「躁」の正反対の2つの極が共にあるという意味が由来です。

<似ている点も異なる点もある「うつ病」と「双極性障害」>
 「うつ病」と「双極性障害」は似ている点もありますが異なる点もあります。
 「うつ病」は生涯に約10人に1人の割合で罹患(りかん)するのに対して、「双極性障害」は約100人に1人です。うつ病は女性の方が多いのですが、双極性障害に性差はありません。
 初発年齢は、双極性障害が若年者に多く、家族歴も多いことが知られています。また、双極性障害は、再発を繰り返すことがうつ病よりも多く、治療が難しい傾向があります。


【診断】問診に加え、血液や脳検査も 国際的な診断基準に照らして
【図2】気分エピソードの診断基準(DSM-5)

 問診によって診断を行います。ご家族など周囲からの情報も有用です。また、身体的な病気や脳腫瘍などの脳の病気、服用中の薬物などから、2次的に気分障害が引き起こされる場合があるので、血液検査やCT、MRIなどの脳検査を併せて行うことが一般的です。
 国際的な診断基準(DSM―5)=図2=では、9つのうつ症状のうち5つ以上の症状がほとんど一日中、ほとんど毎日2週間以上続いている場合をうつ病エピソード(エピソード=複数の症状がまとまって持続する状態)として診断します。躁病(エピソード)は、気分の高揚・易怒性および気力・活動性の持続などの症状に加えて、3つの躁症状が1週間続く場合に診断します。
 客観的な血液所見や脳画像所見がなく、問診で十分な情報が得られない場合は、見逃したり誤診したりすることがあります。
 双極性障害のうつ状態とうつ病は区別がつかないので、経過を見ないと正しい診断がつかないこともあり、その鑑別の補助検査として、光トポグラフィー検査というものがあります。熊本大学病院では、保険診療による光トポグラフィー検査を行っています。


【MEMO】 どんなときに精神科の専門医に相談したらいいの?

 最初から精神科のクリニックに受診されるケースも近年は増えてきています。しかし多くの場合は、うつ状態による体の不調や食欲低下などの症状から、内科やかかりつけ医を最初に受診することが多いことが知られています。
 以下のようなときは、精神科の専門医を速やかに受診することをお勧めします。
◎自殺願望が強い場合
◎うつ症状が長引いている場合
◎過去に躁状態がある場合(双極性障害)
◎妄想(大変な病気になってしまった、申し訳ないことをしてしまった、お金がなくなってしまった、などの気持ちが修正できない)などがある場合


【治療】

<精神的な休養を原則に さまざまある治療法>
 治療は大きく4つに分かれます。「カウンセリング」「薬物療法」「ニューロモデュレーション(脳刺激療法)」「リハビリテーション」です。原則は、精神的な休養が取れる環境をご本人につくることです。
 軽症の場合は、カウンセリングや環境調整だけで回復する場合がありますが、中等症以上は、薬物療法の併用をお勧めします。
 薬物療法は、うつ病と双極性障害では大きく治療薬が異なるため、診たてがとても重要になります。
 また、薬が効かない場合や重症例は、脳刺激療法の適応となります。脳刺激療法には、経頭蓋(けいとうがい)磁気刺激療法(rTMS)と修正型電気けいれん療法(ECT)があります。入院が必要ですが、特にECTは高い確率で奏功します。熊本大学病院では、rTMSとECTの両者を用いた治療を行っています。

<社会復帰のためのリハビリも 大切な主治医との相性>
 また、社会復帰のためのリハビリテーションも重要です。生活指導、疾病教育や自分の状態を知ること(セルフモニタリング)、認知行動療法というカウンセリングの手法により、うつ病になりやすい考え方の癖に気付くことも、再発予防に有用と思います。
 治療上、大切なのは主治医との相性と、回復を焦らないことです。最も注意すべきことは自殺です。自殺防止を常に意識して、治療を行います。
 さまざまな治療方法があり、回復し得る病気です。前述の症状に当てはまる方は、早めに医療機関にご相談ください。


執筆者

熊本大学大学院生命科学研究部
神経精神医学講座 
教授 竹林 実
医学博士
・精神保健指定医
・精神保健判定医
・日本精神神経学会 指導医・専門医
・日本総合病院精神医学会 指導医・専門医