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「あれんじ」 2022年4月2日号

【四季の風】
第57回 石橋

この瞬間への心からの感謝が、俳句になる。

相聞のごとくに橋や花の散る     中正

 ア元達郎・福島通安『熊本橋紀行』をいただいた。とくに石橋を見て、昔の友人に再会したようになつかしかった。数ある石橋でも、私の一押しは美里町の大窪橋。長さ19・3メートル、幅2・7メートルの太鼓橋で、掌(てのひら)に乗りそう。嘉永二年だから、もう一七〇年以上前、こんな美しい橋をつくった新助とはどんな石工(いしく)だったのだろう。さらに、橋の両端に絵のような桜まで植えてもらって、橋も新助も果報者。
 橋は人と人、村と村をつなぐだけでなく、歴史や四季をつなぐ。春はこの橋を渡って来て、二本の桜を咲かせる。西の空には春夕焼がひろがって、私たちはこの橋を渡って、お浄土まで行けそうだ。
 この橋と桜が相聞(そうもん)する。語らいあい睦(むつ)みあう。和歌に相聞歌があるが、俳句でいえば存問(そんもん)か。自然や人や一切が互いに気づかい挨拶することばが俳句。私たちはこの橋や花に心開いて、長い長い宇宙の時間の今の瞬間、声をかけあって一つになる。この瞬間への心からの感謝が、俳句になる。

春は静かに橋上(きょうじょう)を来つつあり     中正

お浄土へ石橋渡るさくらかな              〃

相聞のごとくに橋や花の散る     中正